6 彪の皮の屋根

       (1)
 そして、こんどは、
「おれ、とんでもない珍らしいもの見てきた」
佐兵のごんだから、また小馬鹿にしに来た、誰もあしょらうなと言うたげんど も、
「とんな珍らしいもんだ、とっても見らんねもんだぜ」
「何だ」
「あの、彪の皮で屋根葺いだところ見てきたぜ」
「彪の皮なて、虎の皮だの彪の皮だって、ほがえな、熊の皮も敷かんねに、彪の 皮、屋根さ葺いたなんて、あんめぇちゃえ」
「どこだ、」
「宮内だ」
 また佐兵は人馬鹿にしてはぁ、小馬鹿にする。はつけなこと行ってらんね。な んて藁仕事しったんだって。そのうちの若い者ぁ、まずあしょらって、
「ほんじゃ、そがな珍らしいものなら、おれぁ行って見んべ、もし無いがったら 佐兵、酒買うか」
「あまりええ」
「嘘だったら、酒十五杯、佐兵が嘘こいだら、十五杯、もしあったら、おらだは 十五杯、ほんじゃ酒の賭しんべ」
そして、若衆は仕事やめて、宮内さ行ったんだど。一日がかり掛っこではぁ、 そして六角町あたりさ行ったらば、俵が一枚、屋根さ上がっていたど。そこ突 (つ) ん 抜けて行って、ずうっとあちこち皆見て、熊野さまあたりまで町中見たげんども 彪の皮など、さっぱりない。
「んだから、彪の皮なて、ありっこないのだず」
「佐兵なて、こういうことばり語んのだから、馬鹿にさっで来たんだから、おら だ酒飲むばりだからええ」
 なんて、若衆は笑い笑い来たんだど。そしたら家さ来て、佐兵は待ってだ。
「なじょだった」
「なんだ、佐兵。ほがえな彪の皮なんて、あんめぇちゃえ、どこにもないけなぁ」
「六角町にないけがぁ」
「六角町には米俵一枚上げっだどこあっけなぁ」
「そいつよ」
「人馬鹿にした、この野郎、ほに…」
「ほんじゃて、お前、米なじょに勘定する」
「おれぁ、米一俵、二俵って勘定する」
「米抜いでしまったもんだもの、俵(彪)の皮だべちゃ」
とうとう文句言うたげんども、酒買わせらっで飲まっだど。
(近きよ)
       (2)
あるとき、宮内さ行ったそうだ。そして宮内さ行ってみたそうだ。そして家の あたりさ来て、
「おれ、大したもの見てきた」
て言うわけだ。
「何だ、佐兵。大したものなて、何見てきた、こりゃ、にしゃ」
「彪の皮で屋根葺いていたの見てきた」
「なんだ、この野郎、ここらで彪の皮なて、あんめぇちゃえ」
 て言うたど。
「んだたて、おれ、彪の皮、宮内で見てきた」
そして何だと思ったところが、俵ほごして、俵は一俵、二俵と勘定すんべ、そ の俵(彪)の皮だものな。
(安部茂次)
>>佐兵ばなし 目次へ