2 死んだ馬が草食う

       (1)
 佐兵が、またある日、「いや、とんだもの見てきた。今日は、死んだ馬が草食っ てだな、見て来た」
「なんぼ馬だって、死んだ馬が草食う話なんて、あったもんでない」
 て言うたところが、
「実際、あそこで食ってだから行ってみろ」
 て、行って見たいというごんだ。そしたら、死んで馬が腐っていたもんだから、 ぷんぷんすばらしい匂いしていたんだど。
「ほぉれ、死んだ馬が草食ってだべ」
 て、佐兵にだまされたど。
      (2)
 入生田が露藤、中島を通って米沢さ行く、むかしの江戸街道に五輪窪というと こあるのよ。そこんどこ通って行ったらば、馬一匹死んでだったって。そうして、
くさくてくさくて、寄ってづけながったど。夏で腐って…。そいつ、佐兵ぁ見て 来て、とんで跳ねて来たもんだから、若衆稼いだどこさ来て、
「あそこんどこに、死んだ馬草食ってだけ」
「また、佐兵ぁ、とんでもないことばり語んぜはぁ、死んだ馬草食ったりしない ごで」
 みんな、あしょらわねげんども、あしょらった者もいだったずも。
「ほんじゃ、嘘だか何だか行って見てこい」
「ほだな、死んだ馬草食ったりしてねごで」
「いや、行って見てこい、行くじど分 (わ) かっから」
「ほんじゃ、佐兵、どこにいたか歩いでみろ」
 暇な人だから、行くも。「なじょだ」「いや、臭くて臭くて、とっても寄ってつ かんね、臭くて臭くて…」
「ほだべ、臭くて臭くてだべ、草食ったべ」
 いつでもそういう風に馬鹿されんの承知だげんども、いつも引っかけんなだど。
(近きよ)
      (3)
「いやいや、今、浅川さ行ってきたところぁ、死んだ馬が草食ってたという、ど うも不思議なこともあるもんだなぁ、死んだ馬が草食ってた」
 なて、世間の人から言わっだど。
「やっぱり、佐兵なごんだから、また馬鹿なことつかしてる」
「馬鹿、本当だから行ってみろ、だまさっだと思って行ってみろ」
 行ったところが、やっぱり馬が死んでるて、言うのよ。
「草食ってねでっか」
「この匂いみろ、臭くて臭くて、とっても…」
(今井勇雄)
      (4)
「死んだ馬が草食ってだざぁない」「死んだ馬が草食う、て、あんべちゃえ」  どかて、言うたど。「んじゃ、行ってみろ」て。夏なもんだから、死んだ馬に蠅 からウジから湧いて、とにかく臭さがったそうだな。そうすっど死んだ馬など、 まいどあたりは投げだんだな、当時は…。
 そうすっど、「歩いでみろ」て、四五人連れて行ったそうだ。馬、いだどこさよ。
河原さ。そこさ行ったところが、
「死んだ馬、草食ってるなんてない」
 て行ったど。
「そら見ろ」
 て、そりゃ夏なもんだから、蠅はたかる、ウジは湧いてる、とにかく臭くて困っ たど。
「草食 (く) て、死んでいだざぁ、このことだ」
(渡辺金五郎)
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