50 旅人と大蛇

 ある人が山さ木伐りに行ったらば、何だか、旅人ぁ、あわでで走って()っけて。どんどん、どんどん走ってくる。
「なにして、ほだえあわでで走ってくるんだべ」
 ど思っていだら、ほのうしろから大蛇追っかけて来たんだけど。
「あらら……」
 と思っているうち、大蛇、はいつば呑みはだたど。ほうしたけぁ、旅人、一生けんめい、こだごとしったけぁ、蛇の口押さえっだけぁ、体力つきて、ぺろっと呑まっでしまった。呑んだ大蛇、細くていだところから、ぼこっと呑んだどこ太くなって、ほんで苦しんで、苦しんでだ。「はぁ、あんまり大きな呑みすぎで苦しんでだな」と思って、その稼ぎ行った人見っだれば、キクバオーレンなていうようなもの、山の道傍にある草、ばくばく食ったけぁ、たちまちにして、出っぱりがすうっと消化してしまったんだど。はいつ見っだけぁ、
「ははぁ、これぁ、消化ものすごいする草なもんだ、よし」
 ていうわけで、はいつにヒントを得て、ほこの長者さまていうな、ソバ食いの一番手なもんで、折々余計ソバ食った人さ、田地二反歩くれるなていうほど頑張っていんなだけど。「田地二反歩、いただきたい」ていうわけで、長者さまとソバ食いになったわけだど。
 たちまち、長者さまより余計食ってしまって、まだまだ、まだまだ食う。キクバオーレン、ちゃんと手元さ持って行ったもんだから、大丈夫だ勘定して、ほれ。
 ほして、ゆうゆう勝って、キクバオーレン飲んで、
「ほんじゃ、ご不浄かしてけらっしゃい」
 て。なんぼ待ってでも、来ねんだど。
「おかしいこともあるもんだなぁ」
 て、そこの長者さま、便所さ行ってみたれば、着物とソバだけ残って、人間がすぱっと溶けっだけどはぁ。んだから、「あの草は消化するには消化すっけんども、人間ば溶かす草だったなぁ」ていうたったて。どんぴんからりん、すっからりん。
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