48 鼻高扇

 越中富山の薬屋さんが、ずうっと薬売り歩いで、
「ここらで、まずはぁ、売り止めにしてはぁ、明日また次の宿さ行って売んべはなぁ」
 ど思って、次の宿で、売るどこさ行って泊っかなぁと思って、パッカリパッカリ行ったらば、
「もうし、もうし」
 ていうた。ちぇっと振返ってみたげんど、姿見えない。おかしいなぁ……。
「お前は薬屋でないか」
「はい、薬屋でございます」
 ていうたらば、バサッと落っできたのは、天狗さまだったて。何となく元気ない。
「これ、薬屋、腹いたの薬持たねが」
 持たねていうど殺されっど思って、見たれば、風邪薬やいろいろな点けだりする薬あっけんど、腹いたの薬だけは切らしったけど。
「はて、困ったもんだなぁ」
 ど思って、やっぱりほに、命がけで考えるていうことはよくあって、はっと考えたのは、お神楽がヒョットコ面、お獅子にくっつがっで、足さ目クソ鼻クソつけで直す場面があるわけだね。そいつ思い出したど。んだもんだから、「あります」ていうて、いきなり目クソと鼻クソと、カッとタンと、ほしてここらから垢なの、みなとって、ほれ、長旅なもんだから、金玉などにかすたまっていだの、みな一緒え丸めでやったらば、たちまち天狗は腹いた治ったんだど。
「いやぁ、治って気持ちええぐなった。天狗の社会には金というものはない。んだげんども、薬屋、こだえ効く薬呑んだことはない。何ていう薬だ」
 て聞いだど。したら、はいつに困ってね、
「赤タンキンコクレていう薬だ」
 ていうたって。垢とタンと金玉こすった垢だからね。
「ああ、効くもんだ。んだらお前さ、羽根の団扇やっから。これはまた、これであおぐど、鼻高くなったり、低くなったり、なぜでもなるんだ」
「んでは、ありがどさま」
 ていうわけで、まず、はいつ大事にして家さ持ってって、どっちかていうど、家のかあちゃんが鼻ぺちゃの方だったずも、ほれ。んだから子どもまで鼻ぺちゃ(うか)がったなて、はいつば、ええあんばい直して、パフパフと仰いでやったれば、器量ええぐなったって。子どもも器量ええぐなったて。ほの話聞いだらば、わんさかわんさか、鼻の格好われな来て、たちまち長者さまになった。
 して、ある時、ほの、杉の木の下で寝転ろがえりながら、春先、ずうっと空眺めっだ。
「あの雲まで、伸ばして()ましょう」
 ていう野心おこして、一生けんめい仰いだれば、スルスル、スルスル伸びで、雲からニョキッと出てしまたわけだど。ほうしたれば、ちょうど雷様の一家の家さ出て行って、雷様の母親と娘がいて、
「ああ、松茸出てきた」
 ていうたって。ある時、たつまきで、松茸吹っとんで行って、はいつ、ほの雷様が食ったれば、すこぶる美味がったていうんだな。香よし味よしで、んだがらほの、また松茸吹っとんできたど思ったらしいんだな、娘ぁ。んだらばていうので、焼けた火箸通してみるていうわけで、焼け火箸通さっだもんだから、アチチチ……ていうわけで、ほんでこんどは短くなるように願って、ほしてやっと届いて、くるくる、くるくる廻って、ほっから下さ落っでしまったて。ほして、落ちる途中で尻がねじっでしまって、田螺になったていう話もあっす、薬屋がカタツムリになったていう話もあるんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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