20 ナマハゲの由来

 むがすむがす、漢の武帝ていう王さまが、東洋ジーペンの国に、不老長寿の薬がある、それを求めたいていうので、五匹のコウモリに命じて、舟で日本さ旅立たせたわけだ。
 ところが玄海灘まで来たら、ものすごい、船が、荒れて荒れ狂ったためにその五匹のコウモリが鬼になってしまうわけだ。ほして着いだところが、丁度秋田の男鹿ていうところに着いだ。ほしてそれがこんどは山さ入って行って、途中に相当困難してきたもんだから、気が荒れすさんで、そして悪いごどいっそうやった。女、子どもはかっつぁらう、ひったぐり、野荒しはする、まずひどい目にあったど。
 ところが、人間ていうものは智恵があった。んで、そういう鬼が来ないように、ていうわけで、この辺でいうドンブラコ(落し穴)ていうの掘って、その中さ竹槍なの入っだり、あるいは鹿砦(ろくさい)て称して、鹿の角みたいに鋭ったもので、農作物を守ったり何かした。それで鬼共もほうほうの態だった。しかしながら、処々方々で鬼の被害が相当でておった。
 いろいろ占師さ行って聞いだり何かしてみたれば、
「これは、鬼と賭けする以外にないんだ」
「その賭けていうな、どういう風にしてするか」
 ていうたら、
「天神さまさ千段の石垣を一夜のうちに積んでもらいたい。これが出来だら、鬼の、し放題でええ、自由自在でええ、ほのかわり、それができなかったならば、一切、人間のものに手を触れでもらっては困る。これは鬼と人間の固い一つの賭けである」
 こういう風にして、鬼と賭け合って、「よろしい」と、こういう風になった。ほして、今度ぁ、いよいよその晩になったら、何と鬼共は、ほれ、自由にしたい、盗りだいものを盗りだいもんだから、どっから集めて来たか分んねげんど、その地方には非常に石が少ない地方だったそうだけども、いつの間にすばらしい大きい石ばり持ってきて、鬼がピタピタ、ピタピタ並べて、もう八百段もなってしまった。まだまだ夜が明けぬ。
「困ったごどえなったもんだ、こりゃ」
 ど思って考えていたらば、
「ああ、ほだ。天邪鬼さおねがいすんなね」
 て、こういうわけで、天邪鬼さ頼んで、夜明けだということで、一番鶏の鶏の鳴き声してもらった。ほして、〈コケコッコー〉て鳴いだ。そら、まもなくまた、〈コケコッコー〉て、二番鶏鳴いだ。
「三番鶏鳴けば、夜明けだ」
 こういう風に、昔の人いうたもんだから、二番鶏、三番鶏も高らかに鳴ったらば、鬼共は、「負けだ!」ていうわけではぁ、どんどん、どんどん、そっから逃げて行ってしまった。ほしてはぁ、姿現わすごどないがったはぁて。
 ちょうど、男鹿地方の人だ、「いや、鬼は悪れごどもしたげんど、かわいいどごもあった」ど。
 とにかく、正月の十五日だけ、その鬼を忍んで、鬼の格好して、なまけものをいましめようて、出はった。その行事だな、はいつ、なして〈ナマハゲ〉ていうたがていうど、昔、鬼のことを〈オニ〉て言わねがった。「ナマハギ」ていうた。なぜって言うど、ムジナでも兎でも鹿でも、何でもみな「生で()いで食う」から〈ナマハギ〉ていうたど。「ナマハギ」ていうたのが訛って、〈ナマハゲ〉ていうようになった。どんぴんからりん、すっからりん。
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