19 ガニ滝とウナギ滝

 むがす、刈田領というところに不動滝というところがあったずまぁ。
 その滝をのぼった者は、その辺の主になるて言われたど。
 むかし、中国の黄河の上流に龍門ていうところがあって、特に急流で、百魚、それを昇り得ず、もし昇れば龍となって天上するという謂れがあった。
 ところで、刈田の不動滝も中国の竜門と同じで、その下まで辿りついでたのは「ガニ」どその「ウナギ」だったど。
 いつしか、ウナギとガニが覇を競うようになったど。そごには「ガニ滝」「ウナキ滝」ができていだけど。
 ある晩、きれいな女が炭焼き夫婦のところに、「こんばんは」てきて、
「実はいま、私、ガニにおそわれて、鋏で切られようとしている。何とが、あなたの(まさがり)で、ガニの甲羅をぶづ割っていただきたい」
 大変いそいでいるようだけど。ところが、あまりきれいでなんだか、地元の娘でなく、都の女みだぇだけど。ところが、そこのおかたが、あんまりきれいな女来たなで、親父とられるど悪れど思って、ヤキモチ焼いで、親父ばおさえで、その晩放さねがったど。
 次の日に、気にかがって、滝のところさ行って見だれば、すでにウナキが、ガニにはさまれて、胴切されて居だけどはぁ。
「ああ、やっぱり、昨日のうちに助けでやれば、何とかなったのになぁ。ここまで来て、ウナギも不動滝さのぼせでやっだいがったなぁ」
 ていうたけど。
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