18 鮭女房

 むかしとんとんあったずまぁ。
 ある村に、とっても働き者の若衆居だけど。ところが、どういうわげか、三十近ぐなても、一人者だったけど。
 とある日のこと、用足しに町さ行ぐど思って、途中まで行ったれば、わらし子だいっぱいして、何か、いじめっだけ。何だと思って傍さ行って見だれば、鮭だけど。若者がかわいそうだと思って、
「どうだ、おれさ売ってけろ」
 ていうて、なにがしの金で買って、大川さ放してやったんだど。したれば、「ありがとうさま、ありがとうさま」ていうようなそぶりで、泡、ぶぐぶぐ出して、どこともなく行ってしまったんだどはぁ。
 ほして、二、三日、何ごともなく過ぎだが、ある夕方、きれいな(おなご)来て、
「どうか泊めてけらっしゃい」
 ていうので、よぐよぐ見だれば、どごさが行く宛もないようだす、ほの女ば泊めだんだど。
 次の朝、早ぐ起ぎで、掃除、洗濯、針仕事、外に料理、まず小マメに働ぐごど、働ぐごど。明るぐなてがら、しげしげと眺めで見だれば、なんと羨しいこと、美しいごど、まるで天人か乙姫さまみだえだけど。
 ほして、ほの女がいうたんだど。
「ふつつか(もん)だげんど、なんとか私ば、あなたのお嫁さんにしてもらわんねべか」
 若者は文句があるはずがながったど。
 ほして、二人が一緒になて、仲よぐ暮しったれば、ほのお嫁さんが、
「お願いだから、私のねがい二つ、聞いでけらっしゃい。一つは、水車のかげの川原さ田起すべぇ。今まで一人だったげんど、こんど二人だから、ほれがら今一つは、私が夜仕事しったところ見ねでもらいだい」
 ていうたど。
 ほうしている内、夜になっずど、納屋で仕事する音するんだど。「シャリシャリ、シャリシャリ」て、えんえんと続ぐんだど。若者が見んなて()っだもんだから、かえって見だえのは人情なもんで、雨降る晩に、そおっとのぞいだんだど。したれば、縄ないしったんだけど。
「あら、鮭だ」
 ていうてしまったんだど。したれば、その鮭女房が、
「見ねでけろて頼んだに、みにぐい正体見らっでしまては、ここに()るわけ行がねっだなはぁ。何をかくそう、私は、あの時、あなだに助けらっだ鮭だった。何とかお礼しだくて、人間になて来たげんと、正体見らっでは、もうおさらばだなはぁ」
 ていうわけで、縄ば持て、行ってしまったんだどはぁ。
 次の日、まさが、水車のかげなて言うたけがら、ほごさ行って見だれば、なんと川原さ広々どした石ごろのところさ、なった縄ば張ってだんだけど。昔は川端の広場は官地で持主もながったもんで、特に石ごろの所なの見向きもしながった。なして、こだんどころさ、縄なの張ったべぇて、不思議しったれば、二、三日したら、大雨降ってきて、その縄はったところさ、泥土いっぱい溜まって、立派な水田になったんだどはぁ。約五反歩ばり起ぎだんだど。
 やっぱり、魚だがら、何時、水出て、土、どこさ寄るがわかるなだったべなぁて、いうたけど。どんぴんからりん、すっからりん。
>>竜宮童子 目次へ