10 温泉湯治の由来

 むかしとんとんあったずまぁ。
 ある山奥の村で、(つれ)がら離っで弱って()だ小猿、()めできたんだど。可哀そう だと思って、毎日、人間と同じ食物たべさせで育でで居だけど。
 したれば、段々大きぐなて、またその猿コがなかなか賢こくて、役に立づようになた。喋らんないばりで、何でもわがって居るけど。
 たまたま、そこの家では子どもが生れて居だもんだから、子守りを上手にするようになって居だけど。子どもも大分大きぐなて、その猿になつくようになたけど。して、その猿の右手の先の方が毛変りで、白ぐなていだもんだから、家内中「手白、手白」て呼んでいだけど。
 ある日、ちょっとしたことがら、子どもさケガさせでしまった。ほうして、家の人がら、大変ごしゃがっだ。したれば、手白が居ねぐなたはぁ。気付いてみたれば、子どもも居ねぐなた。大変な事になたはぁていうわけで、村中手分けして探すことになったんだけど。そこら近辺探したげんど見当らね。ずうっと山奥さ入って行ったれば、朝日さ当って、もやぁっとした水蒸気が昇って()だどこあっけど。そごで、なんだが、ちらこら動く物あっけど。何だべぇと思って、ほごさ行って見だれば、何と手白が見える。よぐよぐ傍さ行って魂消たんだど。温泉が湧っだんだけど。ほの温泉さ、怪我したところば浸しては上げ、浸しては上げして居だけど。よぐよぐ見だれば、傷はほとんど治ていだけどはぁ。
「ああ、やっぱり、あの小猿もきっと怪我して弱って居だったのでは。そしてあの毛変りしたところは、怪我の跡では……。親に教えらっだどころさ、わざわざ連れで行って治してくれだんだなぁ」
 て思ったけど。
 ほれがら、その村では、怪我したり、膝や頭、その他痛い時、そこのお湯さ入るど、たちまち治んなだけど。そしてまた疲れもとれる。
 それがら、その話が全国さ広がり、温泉を見付けでは湯治するようになたなだけど。
>>竜宮童子 目次へ