9 ライオンと熊

 むかしとんとんあったずまなぁ。
 むかしは長子相続で次三男は、よほど旦那衆でないど養子に行ったり、分家してもらうことは出来ながったど。
 そこで次三男はどこかで働がんなねがったど。村の友だちが江戸さ行って、楽に暮しているて噂があって、みんなうらやんで居だけど。ところがある日、ひょっこり帰ってきて、
「誰が楽して、日当の倍の給料を出すがら、行ってけねが」
 ていうたんだど。ところでその人の友だちが、「大丈夫だか」ていうたれば、「おれが保障すっから」ていうわけで、江戸さ出発したわけだ。
 ほして、江戸表さ着いだれば、
「さっそく、明日から仕事をしてもらうが、実はライオンの皮を着て、オリの中を歩いたり、ねだりあくびをしたりさえすっどええなだ」
 突然、相棒に休まっで困ってだところなもんで、ていうことなので、なるほどらぐだ、野良仕事よりずうっとええなぁど思って、結局、動物園のインチキライオンに扮していたわけだど。
 春先の天気のええ日だけど。頼まっだ若者が毎日教えらっだとおりやって何事もなかったが、動物園の案内の人が挨拶始めだんだど。
「本日は、かくもにぎにぎしく御来園くださいまして、誠にありがとうございます。さて、只今より、呼物の熊とライオンの喧嘩をごらんに入れます。畜生のこととて、どちらかが死ぬまで、なかなか勝負がつかないと思います。海の向うのライオンが勝ちますか、地元の熊の頭上に勝利の女神がほほえみますやら、とくとごらん下さい」
 ていうたんだど。
 ほうして、()る内、熊の入ったオリが運ばれて来たんだど。
「只今より、獅子のオリの中に熊を入れてお目にかけます」
 こういう事だったのが、あまり話がうますぎるど思った。いざていうど友だちなていうても駄目なもんだなぁ、熊のオリさ入るんだら、途中で逃げることも出来っけんど、絶体絶命だ。親熊のうなり声聞えでくる。それ!ていうたど思ったら、熊がとび込んできた。
「ナムアミダブツ」
「おい、心配すんな、おれだ」
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