3 節分の鬼

 むかすとんとんあったけずまぁ。
 ある村に少々変った夫婦えだけど。そのころは、何ぼ働いでも働いでも、なかなか楽になんない。五年、七年に一度不作などあったりして、大変だったど。そごで、二人が寝物語を始めだんだど。そろそろ寒もすぎ、節分〈福は内、鬼は外〉て、煎り豆をまぐ日が近づいてきたが、なんぼなんでも、世の中全部福は内、鬼は外では、特に「鬼の目ン玉ぶっつぶせ」なんて、豆まがれだんでは、鬼が可哀そうでないが、ていうわけで、そごの家では節分に、福は内、鬼は外でなぐ、反対にして、いぐら鬼でも可哀そうだから、その日一晩泊めで、酒などふるまってやる事に話合ったんだど。
 いよいよ、節分の日やって来たんだど。ほして、表さ「鬼は内」と貼紙しておいだんだど。どこさ行っても〈福は内、鬼は外〉〈鬼の目ン玉ぶっつぶせ〉なて豆ぶっつけらっで休むところもない。ところが鬼どもずうっと来たらば、なんと「鬼は内、鬼は内」て聞える。
「みんな、ここで休ませてもらうべ」
 入ってきたんだど。したれば田がくなど焼いで、酒まで出して接待してくれだ。鬼共喜んで、一晩中酒盛りして帰って行ったんだど。帰って行ぐどき、一番年寄りの鬼が、痛み止めの薬の製法を教えで行ったんだど。
「酒をもやして、炎の中がら、こうして取れよ」
 て、教えて行った。それを試して見だれば、なんと腹の痛み、頭の痛み、歯の痛み、特に歯の痛みにはよく効くんだけど。
 ところが、噂が噂を呼んで、売れるわ売れるわ、たちまちお金持になったんだけど。近郷近在は無論、はるか遠方から買いに来る。これも、鬼は内のおかげさまだで、いうわけで、今でもそこの家では節分に限って、鬼は内、福は外だけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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