9 和尚と天狗

 持念小僧も和尚さんになったど。
 そうすっど、何とか空をとびたいと、つねにこういうこと考えでおったど。空をとぶにはいろいろ考えてみたげんども、まず、天狗の羽団扇以外にないど。天狗の羽団扇、なぜしてせしめっかど、ほういうこと、つねがね考えておったていうんだな。そうすっど、天狗の()まかいしてるという山さ、敵中深く入って行って、ほしてほの、何とか天狗の羽団扇とってきたい。警戒が厳重で仲々入らんね。
「いや、困ったもんだ」
 ていうもんで、ある時行って、山中深く潜入しかがったわけだね。
 ところが途中で天狗が話しておったていうんだ。天狗同士で。
 天狗ていうのは非常に鼻高いから、匂いには敏感であり、音にも敏感であるげんども、若干視力に弱いどこあった。こういうわけで、人参で鼻作って、面上手に作って、天狗の格好して、行ったれば、話し声がきこえるていうんだな。途中まで行ったら〈葷酒山門に入るを許さず〉ていう立て札があって、臭いものは大嫌いだと、天狗は、それだけ匂いには敏感だど。
 で、天狗は何か助平な話はすっけんども、女にはかまわなかったど。
 ところで、語ってる言葉は、反対語だったていうんだな。ほして天狗と天狗が会うど、挨拶するていうわけだ。
「コノエノサマズ、ナイタリアコマンベナス」
 て通って行ぐていうのだな。持念はそいず紙さ書いて、反対読んでみたら、なんだ、天狗なて、反対語を言うていだんだ。こういうわけで、こんど、ほれ、「コンニチワ」の反対を言うたりして、天狗の根城近く潜入して行ったわけだ。ほうしたら羽団扇がずうっと掛っていた。それ(たが)ってみたら、たちまちに天飛べるぐなったていうんだな。
「いやいや、やっぱり天狗の羽団扇、大したもんだ」
 て、そしてアハハ、アハハと喜んでいたれば、揺りおこさっだ。それが夢だったていうわけなんだな。
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