55 酒呑童子
― 越後瞽女の伝えたもの―

 酒呑童子は今こそ鬼、むかしの変化(へんげ)の世にあるときは、イタコシカ村の権助の 総領、親にならの養子に呉れて、吉田長野でわが師匠等に、稚児にやりたや十六 才、おとこ美男と浮名を立てて、世間世情の女郎姫たちに、遊び来いとの恋文(こいぶみ)も らう、文の来ることマンド(万石)の如く、笠の続くことメドリ葉(ぱ)(一枚一枚) の如く、和尚きびしょ....で見ることならぬ、今日は日もよい天気もよいし、和尚の 留守の間に文(ふみ)干(ぼ)ししようと、カワゴ・ツヅラの蓋とれば、人間(ひと) の思いは恐ろしもので、顔へかかりて、ガエンとなりて、角は生えたし、金歯は生えて、ところ鎮 守に、ここにいるなと追い立てられて、ここにいられず弥彦が山に、弥彦大明神 に追い立てられて、ここにいられず大江の山に、丹波大江山は鬼の住む山で、鬼 を集めて家来と名付(つ)けて、世間世情の女郎姫たちをさろうて来、血をしぼりて酒 と名付け、肉を刻んで肴と名付け、これを天下に聞えたならば、一に頼光、二に 渡辺の綱、三に貞光、四に宝生、五に金時、六季武、あれら六人、おえない....手あ い、腰にホラの貝、手に数珠さげて、知らぬ山道、ちどりたどり登りくる、ヤー レ。
(川崎みさを)
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