54 節分の話

 むかしあったけど。
 むかし、丹波の大江山さ鬼住んで、毎日毎日、今日はこっちの娘さらわっだ。 昨日はあっちの娘さらわっだ。毎日毎日、若い娘衆ばさらって行ぐけど。それ聞 いて、源氏の大将、頼光さまは渡辺綱という人に言いつけて、
「本当に住むか住まないか、大江山の方さ行って確かめて来い」
 て言うたけど。そしたば渡辺綱は馬さのって行って、羅生門という門の前さ行っ て、
「丹波の大江山さ鬼住むということ聞いて来た。本当に住むか住まぬか」
 て、大音立てて叫んだど。そうしたばこんど、黒い雲さのって鬼、どんな姿に なって出て来たか、ヨロイ・カブトで行ったの、
「本当にいた」
 て、下って来て、カブトさこう食(く)っ立てた。それがいまちいと...で頭さ、いま一 枚というとこで頭さ傷つかないですんだけど。そしてこんどその手を抑えて捥(も)い で来たど。そしたば、
「七日うちに取っ返す」
 て、そう言うて逃げて行ったど。それからこんど、渡辺綱は家さ帰って来てはぁ、 みんなに言いつけて、
「この腕とって来たども、七日うちに取っ返すて逃げて行ったから、何時なんど き来ないもんでないから、人に化けて来っかも知んねし、誰来たってこの大事な 箱さ入ってしまっておくから、見せんなよ」
 て言いつけて、用足しに出るにも、決して出さねようにしったけど。そしたば ある晩げ、「こんばんわ」て入って来て、
「今晩わ、忘(わ)せたかもしんないども、久しぶりで来てみた。渡辺やい、渡辺やい」
 て呼ばったずもの。そして戸を開けてみたば、白髪ばりのばぁさん、杖棒つい で入って来たずも。そしてこんど、
「まず、おれば当てて呉(く)ろ、今夜寒いから」
 て、火さ当って、さまざま話してるうちに、
「おれは、お前小さいとき、育てた乳母だ」
 て。
「今はこんな形になったども、若いときは、お前ばめんごくてめんごくて、乳母 になって来て、寒いときは絹や小袖さくるんで、膝脱いで小便も大便もみな膝さ 引っかけ、暑いときは扇の風で涼ませて育てた奴だ」
 て、そういう話して、なんぼか鬼の腕とって来たという話聞いて、それ見たい ばっかりに難儀して来たなだから、おれに見せて呉(く)ろ」
 て言うずもの。
「そんなものとっても、とられるもんでない、おらような.....者の力で、そんなこと 嘘だから、当って、おらえさ泊ってもええ..し、戻るでもええし、そんなこと嘘だ から他人(ひと)の話だから、おらような者の力で取られるものでないから…」
 て言うたども、
「あれ、これほど言うても見せらんねと言うことあっか。まず、おれにおがして.... もらったこと思い出したら、見せらんね筈ない」
 て泣くずもの。そう言わっでみれば、見せねわけにいかねから出して見せたど。
「なんとなんと、恐ろしいもんだ。おらはぁ、どう喰付いっだもんだべ。まずこ う喰付いっだもんだべか、こう喰付いっだもんだべか」
 て、持(たが)って見っだけぁ、
「これこそ、おれぁ腕だ」
 て言うけぁ、破風から逃げて行ったど。そしてこんど、逃げて行かっでしまったし、
「さぁ、これは困ったことした」
 て思ったども、まずは失策でかして....しまったから、また頼光さまと相談したわ けだべ、そうしている内に、またあっちこっちの姫もさらわれ、こっちの姫もさ らわっだから、
「どうでも首とってもらわねば仕様ないから、どうでも大勢で行って、退治して こい」
 て、またこんど親方から命令受けて、一に頼光、二に渡辺、三に貞光、四に宝 生、五に金時、六季武と六人で行ったど。そしてこんど、みな、葛篭(つづら)さ入っで、 道具もって行って、姿を山伏の姿になって行ったずも。
 そうして大江山さ来てみたば、酒呑童子親方になって、みな恐(お) っかながってふ るえている姫たちばおさえてはぁ、舞えや歌えの大さわぎだったずも。そうして こんど、いよいよのときは、これ呑ませて退治するて、かねてから約束して行っ たもんだから、二つ口あるのさ酒つめて行って、こっちさ右さ曲げれば、自分た ちの飲む酒ええ..な出る。左さ曲げれば毒酒出るように用意して行ったど。そして こんどそのとき、みな酔えたとき、いよいよ毒の酒出して、左の方から汲いで毒 酒呑ませて、自分たちは右の方の飲みして、みなはぁ、酔えて親方つぶっでしまっ たど。それ目がけて、こんどみんなでこの時だと言うもんで、ヨロイ・カブトで 身を固めてはぁ、頼光はじめ鬼の首とったど。とって、それはまず箱さおさめた べし、子どもは恐(お)っかねがって、どっから逃げたらええ..んだかと大さわぎしてい んな、
「みんな、おらいうこと聞けば、おらいうこと聞いて、素直にしてれば、決して 殺さねで助けっし、どうする。煎(い)ったホシコは海さ入っで泳いだら、里さ出てき てもええ..し、それから煎った豆、畑さ行って生えたら、それも出て来てもええ..か ら…。煎った豆生えねべし、乾したホシコがそのままであったら、決して里さは 出て来んな」
 て、その約束で、こんど帰って来たけど。それから節分をするのは、その謂(いわれ)で、 豆木さホシコはさんで、ここではし.ゃがして....、豆煎って、そして節分のとき豆撒 きすっどき、
   天福・地福
   福は内、鬼は外
   鬼の目ン玉ぶっつぶせ
 てされるもんだから、こんど鬼もなくなって、みんな安泰に暮されることになっ たけど。むかしとーびん。
(高橋しのぶ)
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