52 かちかち山

 むかしあったけど。
 じんつぁとばんさの二人暮しあったけど。そしてじんつぁ、
「今日はあんまりええ..空だから、おれ、山さ行って来っから、ばんさ留守番して ろよ」
 そしてはぁ、山さ豆まきに行って、お昼飯もって行って食べてはぁ、昼休みしっ たずもな。そしてこんど、昼休みして起きて、
「ああ、こんど涼しくなったから、一生懸命に蒔いて行くべと思ってはぁ、昼の 前うなって昼間から蒔き方して、
「一粒の豆は千粒になれ、一粒の豆は千粒になれ」
 て、一生懸命で蒔いっだずも。そうすっどこんど狸出はってきて、
「一粒の豆は一粒でけつがれ、一粒の豆は一粒でけつがれ....」
 て言う。それでも知しゃねふりして、
 「一粒の豆は千粒になれ、一粒の豆は千粒になれ」
 てはぁ、蒔いて、その日はまず蒔き終って来たど。そして次の日は、
「ばさばさ、まず狸め、こんなこというて、あんまり憎いけから、今日は獲る工 面して行んから、隣の村さ行って、モッチ(鳥モチ)のある家あるから、いっぱ いもらって来い」
 て、おばぁさんにモッチもらわせて、こんど大きな石あったもんだから、そさ.. いっぱいモッチ塗っていたずも。そしてこんど、じさま、また豆蒔きはだた...。
 「一粒の豆は千粒になれ、一粒の豆は千粒になれ」
 て蒔いたれば、また出はって来たけざぁ、こんどその石さ腰掛けて、
「一粒の豆は一粒でけつがれ、一粒の豆は一粒でけつかれ」
 て言うずも。そんでも知しゃねふりして、
 「一粒の豆は千粒になれ、一粒の豆は千粒になれ」
 て蒔いて、そしてこんど、よっぽど時間経ったから、狸の畜生、動けなくなっ かも知んねと思って、そしてこんど、「この畜生、何語る」て言うど、逃げる気に なったども、こんど腰さひっついで逃げらんねずも。それから、鍬でびったり叩 いてはぁ、足結(ゆ)つけて家さ持って来たど。
「ばさ、ばさ、今日は狸、仇とってきた。そさ足結つけで下げて、そしておれま た、いまちいと...蒔き残したの終して、早く上がって来っから、決して狸なんて、 悪くすっど、死んだ真似して、生きっことあっから、気付けて、何と言わっだて 放すなよ」
 て、よく教えて、また豆蒔きに行ったど。そうしたば、ばんさ留守居して上げ 手拭にして、むかしだから手搗きして、米食うな、トチントチンと米搗きしった ど。臼さ、またがって.....そうしたば、
「ばさ、ばさ、米搗きこわいべ(疲れるだろう)、おれば一刻(いっとき) ここほどいでみろ、おれ搗いて手伝うから」
 て言うずも、
「いやいや、おれ一人で搗かれっし、じんつぁに決して放すなて言わっだから、 そんな、おれさんね」
「一刻(いっとき)だから、またじんつぁ来ねうちに、おればつないで元のように下げておけ」
 て、そうしてばんさ、とうとう騙さっで、ほどいたど。そうすっどこんど、ば さ、米搗いっだどこ杵を持って叩いて殺してしまったど。そうしてはぁ、こんど ばさの着物きて、ばさの手拭かぶってはぁ、狸、
「じんつぁ、あまり遅いようだから、くたびっで来るべから、おれ、先に拵えで おくべ」
 て思って、ばぁさんば殺して煮て、ばぁさんになって、また米搗きしていたど こさ、じさ、帰って来たど。
「ばさ、ばさ、今帰ってきた」
 て。
「じんつぁ今日、くたびっで来(く)っべと思って、狸汁、おれ拵えて煮っだわ」
「おお、それはええ..がった」
 そして二人で食って、酒一杯買って来(き)ったのあったもんだから、酒飲んでええ.. 機嫌になって踊ったずもの。そうすっどこんど、
「狸(むじな)食うどて、ばば汁食った」
 て。こんど狸がばあさんに化げっだの、踊っこんだど。そして、
「この畜生、ばぁさんに化けて、そんな真似して…」
 ずうもんで、こんど本気になってはぁ、じさに叩がっで逃げて行ったど。
 ばぁさん殺さっだもんだから、じさ泣いっだずも。そうしたば兎来て、
「じんつぁ、じんつぁ、なして泣いっだ」
 て。
「おれ狸にばぁさん殺さっで、こういうわけで殺さっで、泣いっだどこだ」
 て言うたば、
「よしよし、おれ仇(かたき)とってやっから泣くな」
 て、そう言うたけど。そうしてこんど、兎、
「おれ、仇とってやっから、狸ンどこさ行って談判して、まず地蔵さまの屋根、 あんまり損(そ)じたから、地蔵さまの屋根葺きに連(つ)っで行って仇とりすっから…」
 て、兎、狸ンどこさ行ったずも。
「地蔵堂の屋根、あまり損(そ)じっだから、屋根葺きに行んから、お前も手使って呉(く)ろ」
 て、そしてこんど、
「お前、萱背負え、体格え.え.から」
 て、萱背負わせて、杉葉もあんの、自分、後から背負って、
「お前先になれ、おれ、お前より身(な)成(り)ちっちゃいから、後になって行んから」
 て、そして何だかプウプウ、プウプウというな音する。
「なんだ、異な音して来たな」
 て、狸。
「あれ、向い山のプウプウ鳥だ」
 そのうちに、背中はどんどん、どんどんと燃えて来っずも。
「いや、熱っつい、熱っつい、早く早く」
 て言うども、萱一背負い背負っていたもんだから、背中みな焼けてしまったど。 そうしてはぁ、苦しんで竹薮さ行って寝っだど。そさ、こんど兎行って、薬売り の姿になって行って、
「なして苦しんでいた」
 て言うたば
「こういうわけで、火傷して苦しんでいた。ええ薬あっどこ知(し)しゃねが」
 て言うたば、
「だら、おらもたんと(多く)持たねなだども、これ残っていたから、火傷さ、 うんと効く薬だから、これ点けてみろ」
 て、唐辛子粉やって、つけてみたど。いや痛くて痛くて、泣いで、また別なと ころに行って治す工夫ないかと思って行ったば、竹薮あったけぁ、竹薮にも兎い たけど。そして、櫛けずりしったけど。「何するんだ」て言うたば、
「火傷しったでないか、その火傷さだら、櫛刺して、高いとこから落ちっど、火 傷したとこの毒水こぼれて、じきに治るもんだ」
 て、そう言うて、
「竹櫛、ほんではおれに一本呉(く)っでくれ、こんど治っど、まず結(よ) いなし...すっから(「結(ゆ)い」手使けするそのお返し)」
 て、竹櫛もらって行って転んだ。いや、痛い痛い。前にもまさって痛くなった ど。そうして、こんど泣き泣き、なんとかして治したいもんだと思って行ったら、 また杉林あっけざぁ、そこでカチンカチンと何か削る音すっから行ってみたら、 そこにも兎いたど。
「何だ、兎、おれば騙して、まずこがえにおれ、背中痛くて治して呉(く) ろ、こんなことでは、おれ死んでしまう」
「いやいや、それは竹林の兎、おれは杉林の兎だ。違う兎だ」
「拵(こしゃ)えっだのは何だ」
 て言うたば、
「おれ、舟拵えしたのだ。おれ、この舟さのって、雑魚とりすんべと思って、舟 拵えしったのだ」
 て言うたば、
「おれにも一つ拵えて呉(く)れ」
 て、そしてこんど、
「あんまりええ ..から」
 て、自分の舟は杉で作って、狸どさやんのは土で造って、二つ作ったずも。見 かけは似たような色着けで…。そさ行ったけど。そして、
「舟できたから、今日は雑魚釣りに行くべ」
 て、そして行ったずも。そしてこんど、兎先になって、杉舟さ櫂棒もって、狸 は後になって、土舟さ櫂棒拵えてもらって、兎は杉舟ツェーてのっど、どこまで も行くずも。狸も「おれの舟もツェー」て言うども、なかなか行かねずも。そし て段々に遅れて行く。兎はずんずんのって、「杉舟、ツェー」て行くども、狸のは ズブズブ、ズブズブと段々沈んでしまったずも。そして首ばり出して、
「助けて呉(く)ろ、助けて呉(く)ろ」
 て言うども、
「おれは、この前、ばさまば殺した仇とってくれると、じさと約束したから、今 仇とってやんのだから、思い知れ」
 て、そこで沈めらっでしまったけど。
 むかしとーびん。
(高橋しのぶ)
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