45 狐むかし

 むかしあったけど。
 大石沢の方にも中津川の方にも、馬喰していて、むかし馬市開くと行って買っ たり売ったりする、馬喰いてやったんだど。大石沢の馬喰が山に茸とりに行って 休んでだば、狐が二匹集(あつ)ばって、
「明日、おれ、馬市あるから、おれは大石沢の馬喰に化ける。お前は馬に化けろ、 そして馬に化けて、こいつ、おれぁ高く売って来て、ひともうけすっから、そう しないか」
 て、狐が相談したど。そしたら大石沢の馬喰、
「これはええ..こと聞いた」
 そして、何時頃落ち合うということ聞いたもんだから、次の朝げ、大石沢の馬 喰狐行かないうちに行ったって。そして、
「おいおい、早く行くぞ」
 て呼ばったって。
「ほう、うまく化けたな。おい、そのままだな」
 て、その馬の狐が言うたって。そしてヒゴザ着て、笠かぶって小国のセリさ行っ て、その馬は一番高く小国の金持の伊勢屋という家さ売らっだど。そしてその馬 喰はその金持って、ホクホクと家さ帰って来たど。そしたら、狐は厩さつながっ でしまったもんだから、逃げ出すに大時間とって、そしてまず杭破って縁の下を 掘って、ほして...、逃げて大石沢の馬喰になる狐のとこさ行ったど。
「この、なんだ、おれ、大難儀した。まず儲(もう)けた金、分けっだい」
 て、こう言うたって。
「何語ってるや、おれ、行ったときはお前いねがったでないか」
 そう言わっだど。
「いや、そんな筈はない。お前、あんがえ上手に化けて来たのに、そんな筈ない」  て、二匹で大喧嘩したど。
「ほだども、ここの馬喰に、おらだは騙さっでしまったのだか、ほんでは今度は 返報がえしして呉(く)んなね」
 て、二匹で相談したって。そしてむかしは馬を利用して、ブナ畑さ朝草刈りに 行ぐなだど。そんとき、そのここの馬喰がやっぱり馬喰が、やっぱり馬喰して、 夜ぶらぶらと通りかかったど。この道な…。そしたらこんど、なんぼかええ..女に 行き会ったもんだど。
「こんな夜歩かねで、そこさおらえの家あっから、寄って泊れ」
 て、こう言わっだど。そして一杯機嫌であったもんだから泊ったわけだど。そ して、
「まず、湯さでも入って疲れ直すどええ..」
 て、そう言わっで、湯さ入って、ええ..気分で流したど。そしたば、若衆、朝げ 早く馬引っぱってはぁ、唄うたいながら、ブナ畑さ草刈りに行ったど。そうした らその馬喰、裸になって、そのブナ畑に、夫婦沼って、沼二つあんな、その一つ の沼さ入って、ガフリ、ガフリと流していたど。
「なんだ馬喰、そんな朝っぱらから沼さ入って…」
 て言うた。
「何語ってる。こんなええ..湯ない」
 て入っていたど。
「そんなとこは沼だぞ」
 て教えらっで、気ィついて、そしたば沼さ入(はい) ってあったど。狐の返報がえしさっ だんであったど。そんな悪いことはするもんでないど。
 むかしとーびん。
(川崎みさを)
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