(1)歌くらべ

 むかし、加賀の法輪寺というお寺あったど。そこの小僧さんに太郎と次郎と三 郎というのいて、太郎というのは武士の子で、次郎は百姓の子、三郎は和尚の子 であったど。
 ある日、おりんという女がボタモチ売りに来た。
「お前だ、〝りん〟という字のついた歌詠めば、ボタモチ買ってやる」
 て言うた。そしたば、武士の子は、
   りんりんと、小(こ)反(ぞ)りにそった小雉刀
    一ふり振れば、敵はちりりん
 て詠んだ。
「ほう、上手出た。なに餅ええ..?」
「あずき餅、ええ」
 て買ってもらった。
「今度、お前の番だ」
 て。百姓の子に言うた。
   りんりんと、小反りに反った春鰯
    なめして食うたら、腹がとちりん
 て詠んだ。
「おお、よく出来た。お前は何ええ?」
「きなこ餅ええ」
 て。
 こんどは最後の和尚さんの子の番になった。
   りんりんと、リンゴの花を手に持ちて
    詣るお寺は加賀の法輪寺
 て、こう詠んだ。
「上手だ。お前は何ええ..?」
「ごま餅ええ..」
 て、買ってもらって食った。むかしとーびん。
(川崎みさを)
>>お杉お玉 目次へ