33 夫婦と鏡

 むかしあったけど。
 ある殿さまが「触れ」廻して、
「灰で縄なったものには、何でも好きな御褒美くれる」
 て、そういうお触れ廻したど。そしたら、その息子が工夫して縄なって、一把 に束ねたままで、火点けて焼いて、ソクッとそのまま持って行ったど。殿さまの 前さ。そしたら殿さま、
「よく出来た」
 て。
「では、お前の好きなもの、何でも呉れるから、言ってみろ」
 て、こう言わっだど。
「おれぁ、何も欲しくないども、死んだ父親に会いたい」
 て、こう言わっだど。そしたら、殿さま、
「ええどこでない。会わせてくれっから」
 その当時、殿さまでもないば、鏡なていうもの持たねがったど。そしてその鏡 を呉れたど。そして箱に入っだ丸い、こう持つ鏡であったど。そして、
「もう二・三年経ってからでないば、蓋取んなよ」
 て、こう言うて教えたど。そしてそれを固く守ってはぁ、三年過ぎてから、そ の箱の蓋とってみたど。そしたば、自分の顔は鏡に写ったど。そしたら父親によ く似た顔であったと見えて、父親だすもの。
「ああ、ええかった、親に会えた。殿さまのおかげで…。こりゃ大事にしまって おいて、ときどき会わんなね」
 て、また蓋してはぁ、大事にしまっておいたど。そしたら、かが、こんど、
「おらえの親父、どうも座敷の方さ行って、ニコッと来るど。何まず仕舞ってお いたもんだ」
 て、不思議に思ったど。そしてこんど親父のいないうちに探したど。あっちこっ ち。そしたら、その丸いもの見つかったずも。それから蓋とってみたど。したら ば、何(なん)ぼかええ..女いたずもの。
「親父、おれに隠して、こんなええ..女しまっていた」
 こんどは怒ってしまってはぁ、そればかが、ブンブばていたど。
 親父、帰って来たど。
「この親父、今まで人ば騙して、あんなええ..女かくして、毎日会っていだなであっ たな」
 て、大喧嘩になったど。
「そんな女かくして置くはずあっか」
 て、
「いや、ある」
 て、二人でゆずり合わねずもの。
「ほんだら歩(あ)いで見ろ」
 て、そのかがは親父ば引張って行ったど。座敷さ。そして箱とって、
「ほら見ろ、こんなええ..女しまって置いて…」
 て、こういうたど。親父ぁ、
「それなど、おらえのおどっつぁ.....だ」
 て、こう言うど。そして顔と顔よせてみたば、二人写ってしまったど。それで はじめて、これは写るもの、子は親に似るもんだなと、二人で悟って、仲よく暮 してあったど。
 むかしとーびん。
(川崎みさを)
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