31　鼻たれ地蔵

　むかしあったけど。
　あるところに、じさまとばさまがいて、じさま山さ行って、あんまり喉乾いた ので、陰の方さ降りで行って水探したど。んだども、水、沢に流れていねから、 どこらにあるかと思って探しているうちに、地蔵さま見つけたど。その地蔵さま から鼻水、タチン・タチンと垂っでいたど。
「それでもええから、飲んでみたい」
　て思って、弁当食べた空（から） に溜めて飲んだど。とってもうまい砂糖水のような鼻 水だったど。
「ええ地蔵さま見つけた。家さもって行って飲むべ」
　て、そう思って、地蔵さま背負って来たど。そして床の間さおいて、
「ばさまに見つけらんねようにしなね、あまり垂んねから」
　て、そう思って床の間さ置いて、そして、弁当その下さ置いて、たまった頃は そっと行って飲んでくる。唇なめなめ出てくるもんだから、ばさま、おかしいと 思ったど。そしてじさまが仕事に出た後に、上段に行ってみたら、地蔵さまの鼻 から、水、タチン・タチンと垂っでだど。
「これ、じさま、なめんなであったかな」
　て、そう思って自分も飲んでみたど。大変にうまがったど。
「いや、こんなうまいもの、タチン・タチンでなく、いまと．．．一杯出して飲まんな ね」
　て、そう思って、焼け火箸つくったど。そしてこんど、地蔵さまの鼻の穴さ焼 け火箸、ジーンと刺してやったば、キャーッと高窓破って逃げて行ってやったど。 そしたば、じさま仕事から帰って来て、また水飲むべと、
「実は、おれ、なんだかおかしいと思って行って、飲んでみたば、あんまりうま いし、いっぱい垂るように、焼け火箸、鼻の穴さ突っ通したら、逃げて行った」
　て、そう言うたど。そう言うたら、
「このばば、とんでもないばば．．だ。お前の鼻さも刺して呉れっか」
　て、そう言わっで、じさま怒ってやったど。
　んだから、お互に隠しっこなどしないで暮らすもんだど。
　むかしとーびん。
（川崎みさを）
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