28 花咲じじい

 むかしあったけど。
 草すず、豆すずというじさまが、いでやった.....って。草すずというのは意地悪じ いさんであったど。それから豆すずというじいさんはええ..じいさんで、川さ梁(やな)か けたど。そして頭(かしら)さ豆すずじいさんかけたら、大変魚とれるど。
 そしたら、草すずじいさん、
「そんでは、おれも頭さ掛けんべ」
 て、また頭さ掛けたど。そしたばクイゴコ引掛ったど。
「こいっつけ.....なもの引掛って、魚でも引(ひ) 掛(かか)んねで」
 て投げてやったど、尻さ。そうすっど、豆すずじさま梁さ引掛ったど。そうし て豆すずじさは、
「今朝は、なんぼ引掛っていたかな、魚」
 て行ってみたば、ちっちゃいクイゴコ引掛っていたずも。
「いや、めんごいこと、これ持って行って、飾っておくべ」
 て思って、家さ持って来て、大事にわが子のように育てておいだど。そうした ば、段々に大きくなってはぁ、じさまが山さ木切りに行くて言えば、
  山(な)刀(た)つけろ、クェンクェン
  蓑(みの)つけろ クェンクェン
 て言うど。かわいがっていたば、ある日、
  鍬つけろ クェンクェン
  かますつけろ クェンクェン
 そう言うずもの。そして鍬、背中さ着けたらば、「じんつぁものれ、クェンクェ ン」。
 そうしてのったらば、裏の畑さつれて行ったど。そして畑の隅(すま) コさ行ったば、「ここ掘れ、クェンクェン」て言う。それから、じさま一生懸命になって掘って みたば、大判に小判ざくざくと出てきたど。そしてはぁ、かますにどっさり詰め て、そうして家さ来てやったど。そしてその大判・小判出して、ばさまに語って 聞かせっだどこさ、隣の草すずじいさ来たずも。
「おや、豆すず、豆すず、こらほどの金、なじょにして儲けた」
「いや、おらえの犬は、これこれで畑の隅コ掘ったば、こんがえに出て来た」
 て、そう言うて教えたど。
「おれにも貸して呉(く)んねえか」
「ああ、ええ..どこでない、持って行け」
 そして借りで行ったども、つけろと言わねずもの。んだども、無理矢理鍬にか ますに、つけてはぁ、行きたくもないなぁ、引っぱって行ったど。そして掘った 近くさ行って掘れとも言わねな掘ってみたど。そうしたば牛の糞だの、馬の糞ば り出てきてあったど。お金出て来ねずも。
「こんな犬はこうして呉れる」
 て、鍬で叩いて殺してしまったど。そしてはぁ、そこさ犬ば埋めて、掘ったの さ、しるしに松の木一本植えてきたど。そして来て、
「豆すず、豆すず、あんな犬は嘘つき犬で、とても駄目だから、殺して、おれ埋 めてきた」
「いや、むごさいこと、さっだもんだなぁ」
 て言うたば、
「しるしに松の木一本植えてきたから、行ってみろ」
 て、こう言わっだって。そうして行ってみたら、見てるうちにその木がグング ン、グングン大きくなったど。そうして大きくなったもんだから、じさまは伐っ てきて、スルス作ったど。そしてばさまと二人で、
   松の木のズルスの コンズルス
   よう噛め よう噛め
 て、そう言うて挽いたど。そうしたば、じんつぁの前さは大判、ばんちゃの前 さは小判も出て来っど。ざくらざくらと挽くたびに。そうすっどまた隣の草すず じさま来て、見て、見つけでしまったど。そうして、
「豆すず、豆すず、そんなええ..スルスだら、おれにも貸してくろ」
 て、また借りて行ったど。そうして挽いたど、ばんつぁ。そうしたば、ばんつぁ の前さは牛の糞、じんつぁの前さは馬の糞しか出ないずも。こんどまた怒って、 それ、ぶち割ってしまって、竈さくべて...しまったど。そうして豆すずじさま、何 日経っても返しに来ねもんだから、
「おれのスルス、返して呉(く)ろ」
 て行ったど。そしたば、
「あんなスルス、あるもんでない。出るものは糞ばりだ。ほだからはぁ、焚いて しまった」
 て、こう言うたど。それから、
「困ったことさっだもんだな」
「そこに灰あっから持って行げ」
 て、こう言わっだ。それから灰、笊さ入っで、まず貰って来て、軒場さ置いた ど。そのうちに、風吹いて来て、向い山さとんで行ったずも。そしたば、まだ桜 の花も咲かないうち、花咲いたど。その木さ。
「いや、これは面白い灰だ。そのうちに殿さまここ通り掛っから、一つ花咲かせ てみせんべ」
 て、その豆すずじさま、笊さ入った灰持って、殿さまの通る日、待ちでいたど、 木さのぼって。そうすっど、殿さまは遠くの方から、「下に下に」と来たど。そう して、
「そこにいるじじい、何じじいだ」
 て、先払いが言うたど。
「花咲じじいだ、枯木に花を咲かせる」
 て、こう言うたど。
「それでは、一つ咲かせてみよ」
 て、殿さまが言うたど。そうすっど、
   チチンプンプン 五葉の松
 て、その灰を振ったど。そうしたば、パァーと咲いたど。いや、殿さま扇開い て、「これは、みごと、みごと」て、お賞めになって、宝物どっさりもらって来た ど。そうして家さ来て、ばさまに見せたば、また草すずじじ来て、
「こんなにたくさんの宝、なじょにしてもうけた」
「いや、殿さまに、お前どこから持ってきた灰で花咲かせて、もらって来た」
 て、こう言うたど。
「よし、そんでは帰りに、おれしてみんべ」
 そして残ってた灰、かき集めて、笊に入れて、登って待ってだど。と、殿さま 帰りに、「下に下に」て来たど。それから先払れ、また見つけて、
「そこにいるじじい、何じじいだ」
「花咲じじいだ」
「それでは一つ咲かせてみよ」
 て言うたど。じさまは言う言葉も知(し)しゃねもんだから、ただ無性に投げたど。 そしたばさっぱり花咲かねで、お殿さま、咲くかと思って上見た目さ入ってしまっ たど。
「いや、これはニセ者だ早くしばれ」
 て言わっではぁ、そのじさま、しばらっでしまった。んだから、なんぼ人はえ. え.ごんでも、人の真似するもんでないど。
 むかしとーびん。
(川崎みさを)
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