23 鬼婆むかし

 むかしあったけど。
 おらえあたりのような山奥にずっと旅人がさしかかって来たど。そしてこんど、 夕方になったもんだども、いまちいとは行かれっからと思って、行ったばよくよ く山の傍に一軒の家あったど。そしてそこさ行って、
「今晩わ、泊めて呉んねか」
 て頼んだども、音すねから、入って、そして入って行ってみたども、何だか人 間の住むような家でないし、ツシ(棟)さ上がって隠れてだど。そうしていたば、
「ああ、寒い寒い、こんな寒い日はまず甘酒でも温めて飲むか」
 て、鬼婆入って来たど。そうして炉さ火焚いて、甘酒温めたど。
「甘酒でも温めるうち、まず背中あぶりでもすっか」
 て、背中あぶりしたど。そして青苧(おの)殻(がら)、ツシに上げて置いたな、その長いので その甘酒、ツシから青苧(おの)殻(がら)、こう下げて寄越して、皆吸ってしまったって。腹減っ たもんだから、そしてこんど汁(つゆ)の吸い上げた頃、鬼婆目覚めて、
「甘酒温まった頃だべ、飲むかな」
 て言うたら、甘酒みな乾(ひ)ってしまって、皆ないど。
「さぁさぁ、火の神さま飲んでしまった。んでは餅でも焙って食うかな」
 て、餅焙ぶったって、そうすっど、
「まず、餅のあぶれるまで一休みだ」
 て、また眠たって。そうすっど、上から青苧(おの)殻(がら)で、餅チョキッと突ついては引 張り上げて食い、餅チョキッと引張り上げては食いして、みな食ってしまったって。そして鬼婆、
「はて、あぶれたかな」
 て、後ろ向いたら、また餅ないど。
「さぁさ、また火の神さまに食わっでしまった。こんなときは早く眠んべ、ほだ とも、雪も降るし、今夜は木の唐戸さ寝たらええ..か、石の唐戸さ寝たらええ..か、 寒いから木の唐戸にすんべ」
 なて、木の唐戸さねたど。それからその旅人、降りて来て、大きな釜さお湯沸 かしたど。そして鬼婆の寝た木の唐戸さ行って、キリでキリキリともんで、孔あ けたど。
「今夜は、うらのキリキリ虫はひどく鳴く」
 て、こういうずもの、そうして孔あけてお湯煮立ったな、孔から煮湯をつぎ込 んだど。
「切ない、切ない、切ない」
 て言うども、唐戸さ錠かけたもんだから、出らんねぐなってはぁ、その旅人に その鬼婆は殺さっでしまったけど。
 むかしとーびん。
(川崎みさを)
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