15 孝行息子の藤六

 むかしあったけど。
 ちょうど大石沢の部落と同じようなとこに、孝行息子いて、親は年寄って、そ して床に臥せて、毎日何も持っていっても、碌に食べれねから、
「おとうさん、何か食べたいものはないか」
 て、息子きいた。そしたら、
「何も他に食べたいものないども、今は寒の内だ。寒の鮒でも食べたら、何ぼか 丈夫になられんべから、無理なお願いだべども、寒の内の鮒たべたい」
 て。
「それでは、おれ、まずここから入って行けば蒲沢という沼あっから、あの沼で も探したら、鮒釣られっかもしんねえから…」
 て、まず釣竿もってカンジキを掛けて、今日のような雪降りに出かけて行った ど。そうしてずうっと沼のほとり探したば、とてもビクビクという鮒、元気よく 二匹も釣れたど。
「いま一匹も釣りたい」
 て思ったば、三匹も釣れだずも。そうして今度持って来て、まずそれを味噌煮 にすっど、一番栄養あるそうだからて、味噌で煮て食べらせたど。そうしたら、 おとうさん喜んで食べて、そしてよっぽど元気づいて、
「いまと何か食べたいものないか、おとうさん」
 て言うたら、こんど、
「寒の内の筍食べてみたい。筍に鮒に両方食べれば、いま一回起きて働かれるよ うになっかもしんねえから、寒の内の筍食べたい」
 て。そしてまた蒲沢の方さ向って行って、滝(部落)との分かれっどこに、長 者屋敷という、むかし長者住んだらして平らな屋敷ある、そこさ行って、そのほ とりの峯さずっと探したら、向いは峯で、山の神峯て、山の神さま祀ってあった そうだ。そこからずっと入って、あの峯この峯と探したば、ようやく小さい筍見 つけて、そうして帰ってもどり足にはなったものの、腹空(す)いて腹空いてはぁ、と ても家さ来らんねし、眺めたばその脇の方に、ほのかに灯り見えっから、そこさ 行ってトントンと戸を叩いたど。そしたば、なんぼ呼んでも声しなかったずも。
「まず、こがえに腹空(す)きたもの、何かあっかもしんないから、建物あるもの」
 て、戸を開けて入って行ってみたら、戸棚、わるいと思いながら開けてみたば、 まだ搗きたてのような牡丹餅あったずもの。それ食べて、そしてこんど、
「山の神さま、空家だども、腹空(す) きてたまらないから、御馳走になって行ぐ」
 て、山の神さまの方さ手合(あ)せて帰って来たそうだ。そして筍食って、喜んで、 その父親も元気になって雪の消える頃になったら、また二人でむつまじく暮して 過ぎたど。
 むかしとーびん、さんすけびったり釜のふた、灰で磨けばええ銀玉、ハァ、さ んすけふんはい。
(高橋しのぶ)
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