12 お杉お玉

 むかしあったけど。
 あるところに、お杉というめんごい女の子生んで、おっか死んだずもの。そし てはぁ、おどっつぁ一人になって育てて、お金ないもんだから、あんまり大変で 後添いもらったど。そうしたば、また女の子出て、姉はお杉と名付(つ)け、こんど後 添いの子をお玉と名付けたど。そしてこんど毎日毎日、始めのうちは可愛いがっ ていたども、自分の子どもおがるにつれては、お杉はめんごくなくて、お玉ばっ かりめんごくなったずも。そして、さまざまな真似して食いものさ毒入っで食せ るのなんのというの、みんな妹が聞いてて、
「姉、姉、おっか団子拵えたときな、こういう色んな決して食うなよ。これさ毒 入れんのだから、死ぬから。食うときはこういうの食(く)えよ」
 て教えっこんだずも。そしてそういう風にして、仲ええ姉妹であったども、ど ういうことだか、母親は姉ば憎くて憎くてはぁ、何とかして殺してしまいたくなっ てしまったど。そして父親の稼ぎに出はった後に、
「おれ、生き埋めにして殺して来っから、おどっつぁにも、他人にも教えんなよ」
 て、そして、こっそり誰か近しい人に箱拵(こさ)ってもらって、入れて、
「殺さねで入れっから、決して喋ってはなんね」
 て、固く口止めさっだずも。お玉はやさしい妹であったもんだから、
「姉、姉、おっかぁは姉どこ、生き埋めにするというども、そんなこと、おれ、 させたくないども聞かないから、ずっと姉ば辿って行って助けたいな。どういう 風にしたらええ..かと思って考えたば、白い砂、おれ袋さ入(い) っで、箱さ入っでやっ から、それずっと底も落ちこぼれるようにすっから、ずっとその砂振り振り行け よ、埋めらっだとき」
 て、そういう風に言うたど。そしてこんど、お玉に言わっだ通り、ポロポロ、 ポロポロ白い砂撒きまき行って、とうとう埋めらっだずも。
 お玉が母親の留守なうちに、白い砂辿って行って、そしてそこ掘ったば、箱出 はって、さいわいに生きていだって。そしてこんど、お玉とお杉は逃げたど。
「家さ戻れば、おっかにいじめられっから、二人で逃げて行きたい」
 て行ったど。そして遠(と)かいところに行って、どこかで奉公しったど。
 そして、親父、帰って来て、
「かが、かが、なしてお杉帰って来(こ) ね。あまり帰って来ねな、暗くなっても、来 ねなてもないな。どこさ行った」
 て言うたば、
「今日は遠(とか)いどこさ、親類さ小間使いに行ったもんだから、泊ったかもしんねぇ」
 なて、ええくらいなこと言うてはぁ、はっきりしたこと教えねずも。そしてこ んど、そんなこと言うてるうちに、おとっつぁは泣いて泣いてはぁ、目泣きはら して盲目(めくら)になってしまったど。
 そしてこんど、鉦(かね)あったから、それ叩いて尋ねて行ったど。そして山越え川越 え、順礼のようにして行ったずも。
   お杉とお玉がいたならば
   どうしてこの鉦たたかばや
    チンカラチンカラ
 て、鉦叩き叩き行ったど。そしたば小さい町であったべども、旅人(はたご) 宿屋(や)のようなとこで、二人で奉公していたんだっけど。そして、
「何だか異な音立てるの来た」
 て思って、出はってみたば、鉦叩いてそして座頭になった男いたずもの。そし て聞いったば、
「お杉とお玉がいたならば、どうしてこの鉦叩こばや、チンカラ、チンカラ」
 て言うずもの。
「あれ、なんだべ、おらえのおどっつぁ、おらだば探ねて来たのであんめぇか、 出てみっぜ」
 て、二人で出てみたば、まぎれもない、目は見えねども、自分の父親であった ど。そしてこんど喜んで、あんまり喜んで目開いだずも。そして大喜びして、三 人で手取り合って泣いで、そして家さ無事に帰ってきて、母親は、
「とてもこんな悪い気持のもの、おかんねがらはぁ、置かんね」
 て出さっだけど。こんど娘二人と父親で、仲よく暮したけど。
 むかしとーびん。
(高橋しのぶ)
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