10 糠福・米福

 むかしあったけど。
 あるところに糠福・米福という二人の姉妹いだども、姉の方は先のおっかの子 で、糠福の後のおっかさの子は米福。あとのおっかは自分の子めんごいもんだか ら、何するにもええ..ものあずけて、ええ..もの食べらせて、ある日、
「山さ、二人で栗拾いに行って来い」
 て、袋渡されて山さ行ったら、米福の袋はええ..袋で、糠福の袋は穴あいたもん だから、なんぼ拾ってもたまんね。そして弁当持って行ったのも食べねうちに、 米福はいっぱいになったども、糠福のは、なかなかたまんねで、半分ぐらいなも んだずも。そして、
「姉、いっぱいになったから、家さ行かねか」
 て言うたば、
「おれはまだ一杯になんねから、こればり拾って家さ帰らんねから、お前先に帰 れ。おれ、いっぱいになり次第に帰るから」
 て言うて先に帰したけど。そしてこんど、よっぽど拾ったども、いっぱいには なんねし、
「これどうしたらええ..んだか、まず。お昼でも終(おや)してから、また探して拾うよう に」
 て思って、沼あっけから、そこさ腰掛けてそしてこんど食べだども、そいつ糠 福の混ったおいしくない御飯で、とても食べらんねから、沼の中さ投げてやって そして何か思案しったら、沼の水がにわかに動いて来て、そっから角の生えた蛇 体が出はって来て、恐っかないて逃げそうにしたら、
「これこれ、逃げんなよ糠福、糠福。決して恐(お) っかなくない。おれはむかしお前 のおっかであったなだぞ、よっく見ろ」
 て、そう言うたけど。そうしてこんど気落付けて見っだら、そのうちにポロリ ポロリと角落ちて、ええ..おっかさになって、そして、
「そんな難儀してんので、おれ、もう一ぺんこの沼さもぐって行って、そして袋 拾って来て、お前に渡すから、これ持って行って家さ帰って行って、それほごす... ど、中に―その袋は延命小袋―打出の小槌が入っていっから、家さ持って行って、 誰さも見っけらんねようにしまっておけよ」
 て、それ渡して、こんど、
「栗だたって、いっぱいになんねったって、家さ行って、何々出ろてこの打出の 小槌でこの袋叩けば、何でも出っから、こがえに暗くなるまで居ねでええ..から帰 れ」
 て教えらっで、そして帰ったけど。それから誰にも見つけらんねようにして、 そしてその袋と中の打出の小槌出して「栗出ろ」て叩いだらば、栗たくさん出て、 米福拾って来たぐらいのがさ(量)になったもんだから、やめて、また大事にし てそれしまっておいだけど。そしてこんど、脇から見れば、糠福は米福よりも器 量もええ..し、気立てもやさしいもんだから、あっちでもこっちでも嫁に呉ろ、嫁 に呉ろて、もらいに来たど。
「糠福のことであんめぇや、米福だべや、糠福など何にも知(し) しゃねし、米福だば 糠福よりかえってええ..。米福の方もらってもらいたい」
 て言うども、もらいに来る人は糠福ばっかりであったど。そしてこんど、いよ いよ糠福、何にも着物など持たないで、体ばりでええ..から、そういう人あったも んだから、そさ呉っでやったど。いよいよ御祝儀のときになったば、家からはボ ロボロな衣裳の一つも買ってもらったぐらいで出て行ったども、こんど行って自 分の部屋さ行って、その沼から出たおっかに貰った袋、かくしったな、そして打 出の小槌出して「衣裳出ろ」て叩いたば、紋付の衣裳も出、「帯出ろ」て叩けば、 帯も出、立派な花嫁になって、そしてこんど、一生そこで幸福に暮して、米福は そのようには行かなくて、おっかと二人で、むかし通りの暮しで住んだけから、 あんまり後妻だたって、先の子ども粗末にしないで、平らに育てるもんだけど。
 むかしとーびん。
(高橋しのぶ)
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