8 蛇 聟

 むかしあったけど。
 じんつぁとばんちゃといて、三人娘もっていでやったど。そしてこの人は裏田 に千刈、前田に千刈、田んぼ持ってたど。そしてその年はなんと旱魃で裏田千刈 に水掛ければ、前田千刈干(ひ)ってしまう。前田千刈に掛ければ裏田千刈干ってしまう。そしてその水の出るとこの沼さ行ってみたら、沼の水も少なくなってだど。
「はてはて、裏田千刈、前田千刈さ水かけてくれる人あれば、娘三人持ってたが、 どれか一人呉れるが…」
 て、一人言語ったど。そしたら、きれいな男が、その沼がボーッと波立つと出 て来た。そして、
「じんつぁ、じんつぁ、今の話本当だか、おれ掛けてくれっから、おれに呉れる か」
 て、こう言うたど。そしてこんど、家さ来だども、そんな一度に掛けられるもんでないと、簡単に約束して来たど。そしたらその晩、大雨降って、前田も千刈、裏田も千刈、みんなダンブリ水かかってしまったど。
 次の朝げ、じんつぁ困って寝てて起きねど。姉娘行って、
「あの、じんつぁ、じんつぁ、飯出たから起きろ」
 て言うたば、
「いや、実は飯も食(く)たくないようだ。昨日(きんな)、おれぁ沼のとこさ行ってこういうこ と言ったば、これこれの男出てきて、約束したなな.、それがその約束通り雨降って、裏田も前田も、ダンブリしてしまったど。そんで嫁に、お前だ、どれか一人呉んなね、行って呉れっか」
 てこう言ったど。
「そんな、わけの分んね者さ、嫁(い)かれるもんでない。なんぼ、じんつぁでも…」
 て、こんど荒々しく出て行ったど。二番目の娘きて、
「じんつぁ、じんつぁ、飯だから、起きろ」
 そしてまた、その通りに言ったども、その娘も、
「そんな馬鹿なとこさ行かんね」
 そう言うて出て行ったど。三人目の娘来て、また言うたど。そしてその通りにじんつぁ言うたば、
「ええ ..どこでない。じんつぁ、ほだらおれの頼みも聞いて呉ろ。おれにヒョウタ ン千と針千本買って呉れれば、嫁に行くから、買って呉ろ」
 て、そう言うたど。そして、じんつぁ、
「そんなことはぁ、あんまりええ..ぜ」
 て、早速小国の町さ行って買って来たど。そして何すっど思ったら、そのヒョウタンさ一本一本に娘はみな針入っでしまったど。そうして、
「これを、おれの嫁入りの葛篭(つづら)に入れて下さい」
 て、そして入れてもらって待ちていたど。約束の日、そうしたば、ええ..男ぁ来たど。迎えにな。そして、
「おれと一緒に歩(あ)えべよ」
 て、そう言わっで行ったど。そしてついて行ったら沼であったど。
「ここがおれの家だから入れ」
 て言わっだど。
「入るは、あまりええ..ども、これ身上(しんしょ)だから、葛篭、これも一緒に入って行くから、身上沈めてもらうまで入らんね」
 て、そしてその葛篭入れたら、蓋とれてそのヒョウタンみな浮きたど。そうすっ ど、その男、一生懸命で、そっち沈めあっち沈めすっども、ヒョコン出はり、ヒョ コンと出はりすっずもの。そうして夢中になっているうちに、自分の化けたこと も忘れてしまって、大きな大蛇になってしまったど。そうしてバダンバダンと沈 めようとしているうちに針出はって、全身さ刺さってしまったど。そうしてはぁ、 苦しんで苦しんで死んでしまったど。娘は、
「ああ、これでよかった。そうしたら田も干(ほ)されることないし…」
 て思って、家さ帰って来て、じさまにその話したど。
「お前は姉妹じゅうで一番親孝行だから、この身上は、みなお前に呉れっぞ」
 て、そして後とり娘にしてあったけど。
 むかしとーびん。
(川崎みさを)
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