7 猿 聟

 むかしあったどさ。
 じさまが火野(かの)うないに行った。そしてあんまりこわい...(疲れる)もんだから、一人口たったど。
「こわい、こわい。こんなこわい思いして、火野うなわんなね、娘三人持ったが、 この火野うなって呉る人あれば、どれでもええ..娘呉れっどもなぁ」
 て一人で喋べったずうなだ。そうすっど猿でで、
「じさ、じさ、何語った、今」
「何にも語らね」
「何にも語らねなてない。おれぁ薮にいて聞いてた。何か語ったぞ」
「いや、おれは本当は、あまりこわい...から、この火野うなって呉(け)る人あれば、娘三人持てたから、どれでもええなな.呉れるて、本当は言うた」
 てな。
「そんでは、おれ、うなって呉っから、おれに呉(く)ろ」
 て言われて、
「あんまりええ ..ごで」
 て、返事して、うなってもらったども、家さ帰って、
「こんなこと言うたって、オイという子どももないし」
 あんまり心配して、頭病(や)めるというて寝たずだ。そうすっど一番大きい娘が、
「父(とう)ちゃん、起きて御飯(おまま)食(く)え」
 て言うたども、
「いやいや、何も食いたくない。ほだども、おれの言うこと聞いて呉れれば、起きて食うども…」
「なんのことだか、ほだら語ってみろ」
「そして、こうこうだと語ったら、猿ぁ出てきて、そして一刻(とき)にうなってもらっ  たら、お前、嫁に行って呉んねぇか」
 て言うたれば、
「何もんぼれ....こいでけつかる。猿のおかたに嫁(い)かれっか」
 て、枕蹴っとばして逃げて行ったどか。
 そして二番目の娘もその手で来て、じさま頼んだども、それも行って呉(く)んねぇ。
一番末の子きて、
「何でも聞くから、じんつぁ。具合のわるいのさえ治って呉(く)れるごんだら、あん まりええ、猿のおかたになって行くから、御飯食って治って呉(け)ろ」
て言わっで、じさま起きて御飯食って、何日にやることに、火野のどこさ行っ  て決めて、まず、猿の屋形さ嫁に行った。
 三月のお節句に、餅搗いて、
「何さとって持って行ったらええ..がな。笹さ取って持って行くか」
 て猿ぁ言うたら、
「いやいや、おらえの年寄は笹さ取れば、笹くさいから食わねと言うし」
「重箱さ入れっか」
「いやいや、重箱さ入れれば、重箱くさいて食ね」
「ほんだら、何さ入れて持って行くごど」
「本当は、臼さ入れてそのまま背負って行けば、大喜びして食うから、そうして 持って行ってもらう」
 て、臼さ入れたままで背負って来たず。途中さ来っど、川の上さ桜なびいて、なんぼかきれいに咲いていた。
「じさまは桜好きなな.だから、桜取って行けば喜ぶから、取ってもらって行くべ」
 て。猿は臼おろす気になったずなよ。
「いやいや、土さ降ろすと、土くさいって、決して食ねがら、そのまま背負って登ってくろ」
 て。そして背負ったままで登った。
「これいいか」
「んだな、それよか....(それよりか)、もう少し向うの枝だとええ..な」
「んでは、これか」
「いやいや、いま少し(ちいと)枝のええ..どこ取ってもらいたいな」
 て、そういうことを語って、段々と上さやると、重いもんだから、桜の木折れ
て、川の深いどさ落ちて、臼背負ったまま流れて行きながら、
   川に流るる生命はおしくなけれども
    後に残りし姫恋しや
  (さる沢に流るる生命はなけれども
    妻のお菊が悲しかるらん)
  (さる沢に流るる生命はおしまねど
    娘泣くはあわれなりけり)
 て、歌ったど。そして娘が家さ帰ってきて、そこの家の後継(と)りして、一生安楽に暮したけど。んだから親の言うこと聞くもんだ。
 むかしとーびん。
(高橋きみの・川崎みさを・高橋しのぶ・加藤たつ)
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