4 絵姿女房

 むかしあったけど。
 男が殿さまさ仕えていて、よく勤めたもんだし、お妃さま十人のうち、どれで もええ..のさ嫁にさせるというもんだから、仕度させて、座敷通したど。そうすっ ど、「そんな野郎、嫌んだ、やんだ」て言うもんで、身成 な りねじって行くども、一 人やっと嫁になると言うた。そして貰ったそうだ。そして年夜になったもんだし、 殿さまが休むと、その男は年男させらっだど。そうすっど、嫁 あね は男さ、
「年男ざぁ、早く起きんなねもんだど」
 て教えたど。殿様起きてきた。
「あんにゃ、あんにゃ、今何刻 とき だ」「はい、夜 よ は夜 よ の真中でござる」
 て言うど、「これはよく出来た」。そしてまた少しして起きてきて、
「あんにゃ、あんにゃ、今何刻 とき だ」
「はい、夜は夜の真中でござる」
 そしてまた三度目に殿さま起きたそうだ。
「あんにゃ、あんにゃ、今何刻だ」
「はい、夜はせいせいとしたところでござる」
「これはよく出来た」
 て、殿さまがお褒めになって、そこを二人で出ることになった。二人で暮すこ とになったど。その女、あんまり器量ええ女で、あんにゃは見ていらんねがった ど。
「おれぁ、そんがえ仕事しねていらんねがら、ほがえ...におれば見たいごんだら」  て、絵を描いてもらって、絵をあずけてやったど。そうすっど、火野 かの うないの 先に絵を立てておいだどこだど。一生懸命に眺め眺め、うなってだば、大風吹い て来て、その絵ぁ吹っとんで行ったど。男は柔 や っこくなって......、
「いやいや、困ったことになった」
「何困ったこと、あやまちでもしたか」
「いやいや、嫁 あね の絵、風の神、持って行った」
「そんなことなど、さしつかえあんめぇちゃ」
 その絵は殿さまのどこさ吹っとんで行った。
「ほんげなええ..女いたらば、どこまでも探せ」
 て、探させたど。そして殿さまから取上げらっだど。取返しに行ったら、
「灰 あく 縄、千尋もってこい。ほんでなくば許さんね」
 て言わっだ。そんでまた男は、柔 や っこくなったど。
「嫁 あね 、嫁、まず困ったことになった」「なんだ」「灰縄、千尋もって来い。灰縄な て、どうしたらええ..んだか」
「いやいや、そんなことは何より造作ない。おれ、一晩げにもなわれる....から、ん だらば萱刈ってこい」
 て、ジャリジャリとなって...、火付けて、そいつさ塩水かけたもんだ。そしたら ば、千尋の縄、そくっと出たずもな。そうして、
「ほら、あんにゃ、これ持って行って」
 て、あずけてやったずなだ。こんど一生安楽に暮したずなだ。
 むかしとーびん。さんすけ笹巻まいだけど、ごんすけ来て食ったけど。
(加藤たつ)
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