2 瓜姫子と天邪鬼

 むかしあったけど。じんつぁとばんちゃど、いてやったど。ばんちゃ川さ洗濯 に行ったば、川上から大きな瓜、ドンブリコ、ドンブリコと流れて来たど。それ から、
「こんなうまそうなな、拾ってじんつぁと食うべ」
 て思って、そして家さ持って来て、割る気になったば、瓜の中から、かわいい 女の子生れてきたど。そして、
「瓜から生れたから、瓜姫子と名付 つ けっぜえ、じんつぁ」
 て、そして瓜姫子と名付 つ けて、めんごく育てて来たど。そして大きくなってか ら、機織りするようになったずも。そしてトントンカラリン、トンカラリンと機 織れるようになって、じんつぁとばんちゃ、
「おらだ、町さ行って、お前の好きなもの買って来てくれっから、おらだ留守の うちに、天邪鬼来たたて、決して戸開けんなよ」
 て、そう言うて教えて行ったど。そうして瓜姫子はトントンカラリン、トンカ ラリンと織ってだど。そしたば天邪鬼来たずも。そして、
「瓜姫子、瓜姫子、ええ空だから遊びに行かねか」
 て、こう言うたど。
「いいや、今日は機織れって言わっだから、出はんね」
 て、こう言うたど。
「そんなこと言わねで、出てみろ、この戸、ちいと...開けて呉んねえか」
 て、こう言うど。
「じんつぁとばんちゃが開けんなて言わっだから、開けらんね」
「指の先だけでもええ..から、出して呉んねぇか」
 て、こう言うずもの。ぼんでやさしい瓜姫子なもんだから、少し開けて呉っだ ど。そうすっど、ガラッと開けて入ってきてしまったど。そしてこんど、
「遊びにあえべ、あえべ」
 て、聞かねずも、瓜姫子ば引張ってはぁ。そうして裏の桃の木の下のキンニョ (木を積んでおくところ)さ連れて行ったど、遊びに。そうしてその木の上さあ がって遊んでいるうちに、
「瓜姫子、おれ、シラミとってくれっから」
「頭さ、シラミなどいねぜ」
 て、言うげんども、聞かねで髪ほどいてしまったずも。そうしてその桃の木の 枝さ、髪、ギィギィと巻いてしまってはぁ、瓜姫子のどこ下げてしまったずも。 そしてはぁ、殺してしまったずも。そうして瓜姫子の着物みな剥 はが して自分が着て こんどは機織してたど。ほだども、あんばいよく織れねがったべども、織ってた ど。じんつぁとばんちゃ帰って来たど。
「瓜姫子、天邪鬼来ねがったか」
 て聞いたど。 「来ねがった」
「ほんだら、トコロも掘って来たから、トコロゆでで呉 く れっから、これから食う か」
 そう言うたど。そしてゆでで呉っだら、皮も剥かねで食うずもの。
「瓜姫子、皮剥いたり、毛むしったりして食うもんだぜ」
「毛は毛の薬、皮は皮の薬だ」
 て、みな食ってしまう。そうしておかしいなとは思ってだども、こんど次の日 になったば、向うの町から、
「瓜姫子はええ..娘だちゅうから、嫁に呉 く っでけろ」
 て来たど。じんつぁとばんちゃは呉っでやったど。そしてずっと行くど萱野さ 行ったど。そうすっど小さい鳥とんできて、篭さ喰 くっ 付 つ いたど。
   瓜姫子ののる篭に
   天邪鬼は のりーた のりーた
 てさえずる。天邪鬼は「シィシィ」と追うども、「瓜姫子ののる篭に、天邪鬼は のりーた、のりーた」
 て言うど。そうすっど、供の者も気付いてはぁ、 「この畜生、化けだか」
 て叩いて教えたど。そしてそこ萱林であったもんだから、そこ、天邪鬼の血で それ染まって、今でも萱の根は赤いど。
 むかしとーびん。
(川崎みさを)
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