32 半殺し

 むかしあったど。
 何かしようと商いをする商人が、ある峠のじんつぁとばんつぁが住んでいるところに泊めて呉れと来たんだど。そうしたら、そのじんつぁとばんつぁは、とってもよい人であったもんだから、
「はぁ、どんぞどんぞ泊って下さい」
 というわけで、まずめったに人の来ないとこだもんで、じんつぁとばんつぁは喜んで歓迎したわけなんさ。そしてこんど、夜になったんで、商人に先に寝てくれというわけで、先に寝せたわけだ。そしてじんつぁとばんつぁは商人を寝せた隣の部屋で、夜遅くまで起きていて、
「ばさや、ばさや、お客さま取れたから、明日は半殺しにすっか、皆殺しにすっか」
 と言いながら、じんつぁは刃物研ぎをし、ばんつぁはつくろいものをしてだんだど。そうしたら、隣の部屋で寝ていた商人は、魂消て、
「こうしたら、半殺しにされるこんでは、いられねぇ」
 と言って、夜の明けぬうちに逃げて行ったど。むかしとーびん。
(渡辺てつ「小国・昔ばなし」所収)
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