31 もうけた話

 むかしあったけど。
 あるところに、じんつぁとばばがいたけどなぁ。とても貧乏な暮しをしていて、いよいよ年明けの晩が近づいてきたども、何も食うものもなかった。そこでばばはじんつぁに、隣の家に行って屋根の雪落しでもやって、米の足しでもなるようなものを貰ってきて呉れと頼んだが、じんつぁは、いやいや、おれは明日鴨とりに行ってくる。鴨取りなんてしたことねぇから、隣の家に行った方が足しになると、ばばが言うのに、じんつぁは聞かないで、鉄砲かついで鴨とりに行っただ。
 そうしたところが、鴨を見つけたんで、バンと打ったわけだ。犬っこつけて行かないもんだから、じんつぁ、褌一つになって、沼の中に入って行かなくてはなんねがった。褌一つになったじんつぁは沼の中を泳いで鴨をとり、岸を上がってきた。そんだども、股のところが随分重いなと思って、褌、馬鹿に垂れ下がるなと思ったら、大きな鯉が。じんつぁの褌が三年ぐらい洗わないもんだから、その皺のところにシラミがいっぱいたがっていて、そのシラミに鯉がかぶさり、やったわけだ。それ、岡にふり上げて、
「いんや、これはすばらしい、明日(あした)の晩の年取りには、鴨から鯉汁」
 と、じんつぁは大して喜んだそうだ。そうしてじんつぁは鴨と鯉を持って帰ろうとすると、鴨を打った流れ玉に、メス・オス二匹の兎が倒れていた。
「いんや、これはもうかった」
 山兎二匹と鯉一匹と鴨三匹、ゆうゆう帰ってきた。そうして年越しの晩は大変な御馳走になったど。むかしどーびん、カッパの屁。
(伊藤政雄「小国・昔ばなし」所収)
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