30 慶次之介と玉川太郎

 慶次之介は下滝部落の、丸山という山の中ほどに、岩の―人間の顔にたとえれば鼻のように出っぱったところ―洞穴に住んでいて、山でも川でも上手であったというので、今でも部落の人々は山の神のように信仰をして、旧二月十七日にお祭りをして、そこへお詣りに行く。けれど、出っぱっているので、風当りが強く、雪が積らず、とても岩穴は誰一人見た方がないそうです。その下でお詣りして帰る。年々そうなそうです。そして部落の言い伝えには、金の茶釜があると言うんだそうです。
 玉川太郎との喧嘩は、太郎が玉川の川にヤナのようなしかけで、真中を水を通して、そこにドウと此処では言う、細い木で編んで丸くしたものをつけ、魚をとる。それを作って置いたから、慶次之介が魚をそっととって逃げようとしているところを、太郎が見つけ、怒って追いかけては、石を投げつけ、投げつけした。慶次之介はぶっつけられては大変と、駆けて駆けて、下滝のところを、五アゴにかけて、その次の山を駆けずって、これは「駆けずり山」という。そして慶次の岩屋に逃げ込んだ。
 今でも岩穴の下に山菜取りに行くとカランカランと音のすることもあるという。
(川アみさを)
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