26 渡辺綱

 南大門の上に、夜な夜な不思議なものが現われる。そしてその宮中の屋根の上で、不思議なトリが啼く。で、そうやっているうちに、天皇が病気になった。それを占い師に占ってもらったところが、
「南大門に化物が現われるために、不思議なトリも啼くんだ」
 と。それで南大門に渡辺綱が行って、待ち伏せするわけだ。そこに夜、鬼が来る。んで、闇の中で一刀のもとに切り捨てたところが、腕を落した。その腕をつかんで渡辺綱は家に帰って行って、タンスに入れた。南大門には、それから不思議なものは現われないし、不思議なトリも、宮中の屋根の上で鳴かなくなった。天皇も治った。
 しばらくしておったところが、渡辺綱が小さいときに育てられたおばあさんが来た。
「綱、綱、お前は近頃、南大門で非常にすばらしい働きをしたということで、その祝いに、今日は来た」
「それで、その時の働きの品物を見せてもらいたい」
「おばば、おばば、そんなものは、おばばの見るもんでない。あんなものは見るもんじゃないから、そんな無理なこと言わないで呉れ」
 と言うけれども、
「一生の願いだから、見せてくれ」
 というもんで、綱が鬼の手を出して渡した。んで、ずうっと包んであったのを開いていったと思うと、左の肩にそれをピターッとつけると、
「これは、おれの手だ」
 と言って、ブーンと逃げて行った。と、都に夜な夜な人さらいが現われるようになった。それで天皇から頼光のところに、大江山の鬼を退治するようにという命令が下って、こんどその、一に頼光、二に渡辺、三に金時、四に貞光、五に季武の五人で行って鬼退治をしたど。
(塚原名右ヱ門)
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