25 沢中の喜太郎

 小っちゃい時に、弟に、
「おれ、面白いことして見せっから、庭さ出てみろ」
「なんだ、喜太郎」
「まず、ええから来てみろ」
 て、オノガラ持って来て、
「見てろよ、おれ、これ登って行んから…」
 なて、継いで登って行く、継いでは登って行く。見てるとずうっと登って行って、小さくなってしまった。
「早かったなぁ」
 と思って、親父ぁ見ておったら、後ろから来て、肩ポンと叩いて、
「お父(と)、何見っだ」
 て言うた。この野郎はな、と思っているうちに、十三の時いなくなった。して、泥棒になって、どんな錠でも、そこの場に行って、手を三つ打つとビンと、ひとりで開いたど。
 大阪の鴻池の倉にも入って、千両箱を盗んだ。こういう泥棒が沢中から一人出てるんだぞ、お前。
 泥棒をして逃げるときには、一日に四十里も行ったもんだから、とても追かけられるもんでない。出かけるときに、笠を胸にパッと当てたものを、そのままで落ちなかったど。
(塚原名右ヱ門)
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