19 鴨とり(2)

 むかし、あるところに、鴨とったり、狢とったりして商売にしているじさま、いであったずも。このじさまというのは、鴨とり上手で、秋になっど、沼さ行って、その鴨とって来るなだけど。そして、その鴨とってくるのだけど。そしてその鴨ぁどうやってとるかというど、延べ縄を張ってとるのだけど。こういうとこまでは分るども、誰にもその秘伝というものを教えねがったじんつぁであったど。そのじさま、
「おれぁ、お前がたと違って、鴨とりぁ一番上手なんだから」
 と、また自慢こぎで、人からどうもあまりよく言わんねじんつぁ、いであったど。そのじんつぁが、ある年の秋、いつものところさ延べ縄を張っていたなさ行って見てみたところが、鴨、ずいぶんいっぱい掛ったわけだ。それでじんつぁはその鴨、キィッと首をひねって、そして腰に一羽さし、またキィッとひねっては一羽さし、またキィッとひねっては一羽さし、そしてずうっと腰の帯んどこさ、ひねってさしたところが、帯いっぱいに鴨なったど。そして、じんつぁがひょいと油断したときに、一羽の鴨がバタバタていうど、その鴨がバタバタ、バタバタって飛んだもんだから、じんつぁは空高く舞い上ってしまったど。
 そうしてずっと高く上って行ってしまって、そうしているうちに、みな元気ええぐ羽ばたいたもんだから、その、鴨が一匹抜け、二匹抜け、三匹抜け、抜れば抜けるほど、帯がゆるんできたもんだから、鴨みな逃げてしまった。じんつぁは真逆さまに下さ落ちてきた。て、こんど下さ落ちだ拍子に、目の玉二つ、ベロリ何処か吹(ふ)とばしてしまった。それからじんつぁは困ってしまって、
「やれ、目玉なくなった」
 て言うわけで、その辺のところを一生懸命に探ったところが、丸こいもの二つ見つかった。それでこんどは、まず目玉はめたど。ところが、あまり気揉んではめたもんだから、一つは腹の中見えるように、一つは表が見えるように嵌めてしまったど。さぁ、こんど腹の中の状態が、片目で見えるもんだから、ちょっとそのじさまが、腹痛いて言えば、あそこ悪いなだ。頭痛いて言えば、あそこ悪いなだ。ここ悪いなだ。腰病めるて言えばここ悪いなだって、みんな悪いどこ分るようになった。
 それでじさまはこんど、
「いやいや、これはいままで、おれは殺生をしたんだが、こんどは何とかみんなの為になられっか」
 て言うので、頭痛いて言う人には、
「あそこ悪いなだから、こうせば治る。この薬飲みなさい」
 腰病(や)める。
「んじゃ、これぁ腰病(や)めっこんだら、ゲンノショーコ煎じて飲め」
 て。こんどは出きものできた。
「ああ、それぁ、その腹の中どこ悪いのだから、ドクダミ煎じて飲めばええし、その創口さはトクダミを火所(ほど)でいびって貼れば治るんだ…」
 と、そう言って教えて、その辺りでの一番の名医になったけど。むかしどーびん。
(塚原名右ヱ門)
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