14 鬼と豆の食いくら

 むかしあったけど。
 あるところに娘と父親と二人いであったど。なんぼかええ娘であったど。ほしたらこんど、山に鬼が、その娘を見込みつけてしまったど。そしてはぁ、毎日のように、
「欲しいから呉ろ。欲しいから呉ろ」
 て来るごんだど。親父も困り果ててはぁ、
「何としたらええもんだか、一人娘、鬼になんて呉(く)っだくないもんだ」
 と、こう思っていたど。そうしたら、娘、
「ほだら、おどっつぁん、おどっつぁん、あの、豆煎りの食いくらしろ、そして負けたら呉れる。とこういうことにしろ」
 て、こう言うたど。
「そんなこと言うて、鬼のぐらいなの食(か)んねぜ」
 て、こう言うたど。
「おれ、何とか工面しておくから…」
 て、そう言うて、鬼来たとき、
「おどっつぁと豆の食いくらして、勝ったらもらわっで行く」
 て、こう言うたど。そしたら喜んで、
「あまりええ」
 て。それからこんど、娘一生懸命で豆煎って、鬼には娘のところばり見とれているもんだから、知しゃね振りして小石混えて鬼の豆さやったど。こんど固く煎ってやったど。父親なは、柔(や)っこくええあんばいに噛めるようにやったど。一ガラ―茶ホウジ一つのこと―ずつやったど。鬼は噛むと固いなガリッと噛まさっでしまうど。んだもんだから、困っているうちに、父親は皆食ってしまったど。そしてこんど、
「いや、今日は何だか、おれ、歯悪くって、今日は駄目だから、また後で来っから後でまた何か考えてて呉(く)ろ、そん時、また競争すっから…」
 て、鬼帰ったど。そしてまた来たごんだど。そしてこんど、
「ほんだら、縄ない、今日はするが…」
 て言うたど。そして藁、父親なは、柔らかく打っておいで、ないよくしておいたど。鬼の縄、あちこち打っておいで呉っだど。そうして一生懸命でなうじど、鬼夢中になって綯ってるうしろさ行ってはぁ、そおっと鬼の縄切って父親なさ、こう足(た)すごんだずも、娘うしろさ行ってな。そしてこんどその藁、鬼のどさも持って来るど。そして綯ったのな、一尋、二尋とたごんで置くわけだな、環にして、そしてしまいに綯い上げてから、たごんでみたら、父親の方多かったど。そして、
「やっぱり、おらえのおどっつぁには敵わねから、お前みたいな下手な人さは嫁(い)かんね」
 て、娘にそう言わっで、鬼もあきらめてあったけど。利巧な娘であったけど。むかしとーびん。
(川アみさを)
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