9 ブサローの化けもの

 むかしあったけど。
 あるさびしい村に、町さ出て行くとき、どうしても通らねね道のどさ、お化け出てきて、毎晩かた、「ブサロー、ブサロー」ていうずもの。そうしてそこ通った人はみんなはぁ、その化けものに食われっか何かして帰って来らんねから、誰も行く人なくなったけど。そして孝行息子の、いっぱい稼ぐ息子いて、
「んだら、そんがえにみんな困るようだったら、おれ行って退治してみんなの為になっかなぁ」
 て、ここの家の父(とう)ちゃんのような人であったべ、そしてこのばっちゃ、
「みんなのためだもの、おれ、出かけらせんのも心配だども、行って来い」
 なんて出掛けたど。ほうして途中まで行ったば、こんどブサロー、ブサローよりも、まず、
   イチロクサントウの峯通って来い
   イチロクサントウの峯通って来い
 て言うずも。―イチロクサントウって、どんな峯であったか、まず―普通は行かねその峯通って行ったど。その息子…。そしてこんど行って、やっぱりブサロー、ブサローて音すっずも。丈夫な帯持って行ったから、
「毎日、そんなこと言うてる者、何ものだ。おらえの家さ連(つ)っで行んからブサレ」
 て、丈夫な帯持って行って背負(おぶ)ったど。いや重いは重いわ。ここの父ちゃんなど炭の二俵も背負っても、てんてん降りて来んな、やっと重くて降ろしたずも。そして家さ来て、まず板の間さ置いて、
「こんな重いもの、板、傷(いた)めっど大変だから」
 て、土間さ降ろしたずも。ドシンというげど。
「ああ、朝げにおらえのばば、年寄って何でも心配すっから、こんな何か恐っかないもの出はっど悪いから、誰も起きないうちに、まず一番先に、おれ見なんなね」
 て、そして早く起きて電灯のあかしで、そろっとはぐって見たば、入っていたわ、入っていたわ、大判に小判に、こがな入れものさ、いっぱいであったど。そしてあんまりその息子働いて孝行息子だから、そさ授いたなであったけど。むかしとーびん。
(高橋しのぶ)
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