6 鼻水地蔵

むかしあったけずも。じんつぁとばんつぁ暮しったど。じんつぁは非常に稼ぎもんで、一生懸命田でも畑でも稼ぐ。ばばはばばで家の中のことはするども、なかなか他の荒仕事はしないばばであったずも。
 で、ある年のことだけれども、火野(かの)刈りにじんつぁ行った。山さ行ったずも。火野刈りて言えば、ほれ、盆前の暑いときのもんだから、一生懸命に火野刈りしてるうちに、喉乾いてきた。喉乾いてきたから、沢さ行って水飲んだ。そしたら非常にうまい水だ。
「ええ水見つかった」
 と言うんで、じんつぁは大喜びで、まず火野刈り終した。なんぼ飲んでみても、この水はうまい、どうも不思議に思って、じんつぁはずうっとその沢登って行ってみた。登って行ってみたところが、岩の下のところに地蔵さま一つポツンとあって、そこのところから、タチンタチンと水が垂(た)っている。その水がその清水の出っどころさ、ポタンポタンと落ちてる。そのところを流れてきたのを、じんつぁが飲んでる。それから、
「地蔵さまの鼻水なて、どんな味するもんだ」
 と思って、手さちょっともらって舐めてみたところが、これがとてもうまいもんだ。なんとも言えない甘いし、うまいものだ。
「ああ、こんなところに置いてはもったいないから、おらえさ行ってお祀りするべ」
 というので、じんつぁは家さ地蔵さまどころをお迎えして帰った。そして上段の床の間さ飾って、鼻水、ポタンポタンと落ちるもんだから、他さ落ちてはうまくないというので、鉢を下さ置いて、毎日、朝拝み、鉢さ溜まった水を頂き、御飯を上げたりして、お祀りした。ところがばさまは、
「じんつぁは、どうも座敷さ行くど、なかなか出てこない。じんつぁ、じんつぁ何しった」
「いやいや、にしゃはええなだから、来(く)っことない。こさは今度は入ってはならない」
 と、じんつぁにはおんつぁれっから、ばさま、まず行かれない。どうも朝晩はその上段さ入ってしばらく出てこない。
「若い女(おなご)でも連(つ)っできて置いっだなだかも知んない。これは、じんつぁいない時一つ調べて見ねばならない」
 て言うわけで、ばさまはそっと、じんつぁにおんつぁれっと悪(わ)れなと思ったげんど、入ってみたど。ところが、地蔵さまポツンと一つあって、前に鉢置いてあって、ポチョンポチョンと鼻水たっで、溜っている。
「なんだべ、こんなもの、地蔵の鼻水なて、こんな汚ないもんだ。これ好きで、じんつぁ入っているなだとすれば、何かどうかなっていんなだべな」
 と思って、舐めてみたて言うなだど。ほうすっど、これ、すばらしくうまいものだ。
「なんだぇ、まず。じんつぁ、こんなうまいもの、おれさ今まで教えもしないで、自分ばり飲んでで…」
 ほんで、ばさまはチンと舐めては、なくなっど困るなと思うども、こたえらんねくて、
「なくなっど、これ、じんつぁに分るな」
 と思っても、我慢できなくて、飲みして、しまいに皆飲んでしまった。
「さぁ、困った。じんつぁは帰る頃になった。鼻水は溜っていない。どんどんと流して呉れればええ」
 と思うども、出しても呉んねぇ。あいかわらずポタンポタンとしか出ないと、鼻の穴を見っど、ちっちゃこい穴で、垂れにくそうな穴だ。それからばんちゃは鼻が大きくあけて呉れれば、ジョーと出っべぁ、すっどまず、じんつぁに分んねでしまうべ」
 て言うんで、火(ほ)所(ど)さ焼火箸焼いて、もって行って、鼻の穴めがけてジューと入っだ。ほうすっど、地蔵さま、ビューンと屋根を抜いて飛んで行ってしまった。ばさまは困った。困ったども仕様ないから、じんつぁ来るやにわに、飛んで行って、
「実は、おれ、その、じんつぁ、何隠しったど思って見たば、地蔵さまの鼻水垂っていたもんだから、それ舐めらせてもらったところが、あんまりうまくてみんな舐めて、いっぱい出すべと思って、その鼻の穴さ焼火箸入っだところが、地蔵さまは煙出しから逃げて行ってしまった。われがったから勘弁して呉ろ」
「ばば、ばば、そんなことは、まずお前もそんな無理なことしては悪がったし、おれも隠しったんだから、それは悪がった。それは両方悪がった。まず可哀そうなことしたのは、地蔵さまだ。地蔵さまさ行ってあやまって来ねばなんね」
 て言うんで、じさまがその地蔵さまのいてあった岩の下まで行ってみたところ鼻、火傷(やけぱた)して、大きな団子みたいになって、真赤になって、はれて、地蔵さまは苦しがっていた。それから、じさまは、地蔵さまのどころさ、
「まことに申訳ない」
 て言うんで、あやまって火傷(やけぱた)の薬つけてくっだ。そうして火傷なおして呉っだところが、こんどはええくなったものやら、病気なおったものやら、地蔵さまは鼻水たらさねぐなったけど。むかしどーびん。
(塚原名右ヱ門)
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