30 鬼娘の話

 ある非常に金持ちの家に、きれいな娘いだったど。一人娘なもんだから、聟もらいだいと、一ぺん二へん御祝儀して聟もらったげんども、御祝儀の晩になっど、聟逃げでって一人として聟にはいった人いねがったど。
 ほだもんだから、あそごの娘、鬼娘だと言わっちゃど。
 ある時、一人の豪胆(ごうたん)な若衆が、
「ほんじゃ、おれ、聟さ入るべ」と、行った。御祝儀終して部屋さ入った。衣装を脱いで寝んべと思った真夜中ごろ、きれいな嫁になった娘が髪ふり乱し、部屋の隅からカメを出して来て、血が出てる子どもの死んだな取り出して、食べはじめた。それを見た聟は、ちょっと魂消えたが、豪胆な人だったもんだから、その嫁の傍に行って、
「お前が食(か)れるもんだら、おれっにも食せてみろ」と言った。「ほら食ってみろ」と出したのは、手にとってみたら、お菓子で作った人形だったど。娘は、
「お前のような豪胆な人の聟が欲しがったんだ、ほだからこいつ食って試していたんだ」と言って、仕合せになったど。
話者 (高畠町露藤)
採集 今井加代子
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