28 にんじん角とこんにゃく舌(べろ)

 むかしむかし、意地の悪(わ)れお姑ばばがいだったけど。嫁んどこ憎くて憎くて、何とかして嫁んどご、この家がら出してやっぺと思っていだんだげんども、追い出してやっことさんにぇくて居だったど。
 ある夜中だったげんども、嫁が便所さ行ぐど、お化けがすうっと出て来(く)んなだど。「おっかねぇ、助けて呉ろ」って言って亭主んどこ起こして、そこさ連(つ)っで行ってみだげんども出て来ねがったど。それから毎晩のようにお化けが出てくるもんで、また亭主んどこ連(つ)っちぇ行ぐげんども、消えてなくなっているんだど。おぼこ達さも教えっだら、おぼこたちは面白がって、夜中、便所さ行って見っけんども、いっこう出て来ねがったど。おれはこんな恐っかね家さ居らんにぇ、と思って、嫁は実家さ帰って、
「お化けが、夜な夜な出る家さ居らんにぇ」て教えっけんども、
「そんなことあんめぇちぇ、恐っかねごんだら、毎晩亭主んどこ起こして便所さ行ったら、ええごで」て言わっちぇ来たど。そうして毎晩亭主んどこ起こして便所さ行ってもらうげんども、いっこう出て来(こ)ねがったけど。そんで嫁は、
「ここで、おれが恐っかねぇっていていれば何にもなんねぇ、こんど出たら、首とっつかまえてやっぺ」と思って、ある夜中、便所さ起きて行ったら、またお化けがすうっと出できたど。
「ようし、今のうちだ」と思って捕えて、角押えてみたら、ポチッと折(おしょ)っだ。何だべと思って見たら、にんじんだったけど。こんど、舌(べろ)何だべと思ってよく見てみたら、こんにゃくだったけど。そしてお面はがしてみだけりゃ、その顔はお姑ばばだったど。
 嫁は「こんがにしてまで、この家さえらんにぇ、実家さ帰っぺはぁ」と考えでしまって、とうとう帰ってしまったど。
話者 安部富吉 (米沢市木和田)
採集 安部富美子
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