23 団     子

 山奥に仲のよい働き者の夫婦が住んでいました。三つになる男の子と五つになる女の子と二人の子どももありました。春には畑に野菜を作り、兎や小鳥を取ったりして食べていましたから、何分自由なく子どもを育てて暮らしていました。寒い冬がやってきました。父親は大きなキジを取って来て、子どもたちに食べさせようと毛をむしったり、皮をはがしたりしていました。そこへ小さい姉弟がはしゃぎながら、父の料理を待っていました。ところが大変、三つになる男の子があやまって父の使っていた小刀をのどに刺して死んでしまいました。鳥を食べようところじゃなくなってしまいました。二人の親は泣き泣き、子どものなきがらを山に葬りに行きました。五つになる女の子を背負って、山の上に来たとき、空が真っ黒になって、おそろしい大きな鳥が背中の女の子をさらって行ってしまいました。父親も母親も気狂いのように、「子どもを返せ、子どもを返せ」と泣き叫びましたが、寒い冬の空にとび立った大きな鳥は二度と姿を見せませんでした。二人は毎日毎日子どもたちのことを思い出して泣きあかしました。
 春になっても二人は働く事も忘れて泣いていました。食べるものもなくなりました。住んでいる家もこわれました。二人は仕方なく乞食のようになって旅に出ました。ある日、二人は見知らぬ山道を歩いて行きました。どこまで行っても一本道で暗くなって来たのに、雨も降って来ました。なんとかして宿がほしいと思いました。すると向うにポツンと灯りが見えて来ました。二人は喜んで大急ぎでかけよって一夜の宿を乞いました。そこの主人はおどろいて言いました。
「ここは、あなた方の来るところではありません。私の家は死んだ人に団子を作って売るところです。朝くらいうちから、夜おそくまでたくさんの人が団子を買いに来ます。きっとあなたの子どもさんも来るでしょうから、泊まって見て行きなさい」と、話を聞いた主人はやさしく言いました。二人は子どもたちに会える喜びで、夜も眠れませんでした。
 朝となりました。山のように作った団子が出されました。次から次と、たくさんの人がたくさん団子を買って行きました。子どもたちはまだか、まだかと待っていますが、なかなかに来ませんでした。くらくなって団子を買いに来る人もまばらになって、作った団子も、もう少しになりました。二人は気が気でなく、もう来ないではないかと、がっかりしていました。
 すると、もうこれで最後かというとき、ボロボロの着物を着て、青い顔をして、二人の子どもが手をつないで、よちよちとやってきて、団子を三つ買いました。姉は自分が一つ、弟に一つ、そしてもう一つは、
「お前が後で団子が欲しいと泣くから」といって、紙に包んで弟のふところに入れてやりました。そしてまたよちよちと帰って行きました。二人の親は泣きながら、子どもの名を呼ぼうとしましたが、そこの主人に、ぜったい声を出してはいけないと言われました。変り果てた子どもの哀れな姿に、二人は泣き叫びたく思いました。主人はそんな二人に話しました。
「あなたたちは早く家に帰って、家を直し、畑を作り、仏を守りなさい。毎日毎日仏壇に温かい御飯とお茶を上げなさい。そうすればあなたの子どもたちもたくさんの団子を買うようになりますよ、いい着物も着てきますよ」と、やさしくさとしました。二人はそこの主人にお礼をいって自分の家にもどりました。そして前にもまして働きました。家も直しました。畑のものもよくとれました。四季毎にとれた畑のものを供え、温かい御飯も毎日仏さまに供えられるようになりました。子どもたちも毎日元気でたくさんの団子を買いに来られるようになりました。
話者 佐藤ふみ(川西町)母
採集 佐藤しげ子
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