21 地蔵浄土

 むかしむかし、仲のよい、気持ちのやさしい、おじいさんとおばぁさんがありました。おばぁさんが庭をはいていると大きな団子が転んで来ました。ころころと転んで土の穴に入ってしまいました。
「おじいさん、おじいさん、団子がこの穴から落ちて行きましたよ」と、おじいさんを呼んでいいました。
「どれどれ」と、おじいさんは団子を拾いに穴に入っていきました。団子はまたころころと転んでいきました。
「団子さん、団子さん、どこまでござる、どこまでござる」と追っかけましたが、見失なってしまいました。お地蔵さんが立っていました。
「お地蔵さん、お地蔵さん、団子が転んできませんでしたか」と聞きました。お地蔵さんはにこにこして、そっちの方に行きましたよと指さして教えました。団子はやっぱりありました。
「お地蔵さん、団子がありましたよ」と、気のやさしいおじいさんは、汚れたところは自分が食べて、あとはお地蔵さんに食べさせました。お地蔵さんの傍で一服しながらいろいろと話をしました。お地蔵さまは言いました。
「おじいさん、私のひざに上りなさい」
「いいえ、もったいない、お地蔵さんのひざになど上がれません」と言うと、いいから上がりなさい。と言います。今度は腹の上に上がりなさいと言います。おじいさんはもったいないからというと、いいからと、上がりなさいと言います。今度は肩に、今度は頭にと、もったいがるおじいさんを頭の上に上げて言いました。
「ずうっと東の方を見なさい。大きなヤカタが見えるでしょう。あのヤカタに、夜になってたくさんの鬼共が集まって、バクチを始めます。一晩中バクチをすると、朝三番鶏が鳴くのを合図にみな帰って行きます。あなたが行って、鶏のまねをしてみなさい」と教えました。おじいさんはお地蔵さんの言うとおりにそのヤカタに行ってみました。そして屋根裏に上って見ていました。夕方になりました。赤鬼・青鬼、大きいの、小さいの、こわい顔をした鬼共がたくさん集まって来ました。おじいさんはこわくなって、ガタガタしていました。
 まもなくバクチが始まり、金のやりとりが始まりました。おじいさんはこわごわと、「コケコッコー」といいました。鬼共は「一番鶏が鳴いたぞ、少し早いようだな」と言いながら、一生けんめいバクチです。おじいさんは少し間をおいてまた「コケコッコー」といいました。二番鶏が鳴いたぞ、それもう一息だ」と、見むきもしないで夢中にやっています。東の空がしらけた頃、おじいさんは、ひときわ大きく、「コケコッコー、コケコッコー」と言いました。鬼共はあわてて金も集めず、「勝負はあしたの晩だ」といって帰ってしまいました。おじいさんはこわごわ屋根裏からおちて来て、その金を頂きました。お地蔵さんにようくお礼をいって帰って来ました。
 となりに欲の深いおじいさんとおばぁさんが住んでいました。ようし、おれも行って金をとってこようと思いました。うまくもない団子を作って転ばし、上れともいわないお地蔵さんの頭の上にあがり、
「あそこだ、あそこだ」と、走って行きました。鬼どもがたくさん集まって来ました。バクチが始まりました。おじいさんは目を光らせて、あの金を全部取ってやろうと思っていました。
 にわとりのマネをしました。一回、二回はうまく行きました。三回目の「コケコッコー」は夜明けないのに、早く金がほしいので、早くに鳴いてしまいました。鬼共は少し変だぞと帰らないでさわぎはじめました。おじいさんはガタガタしてかくれていましたが、屋根裏から落ちてしまいました。鬼どもは「あのヤローだ。この前もおれたちの金をとったのは、こらしめてやれ」と、てんでに着物をはいだり、なぐったりでひどい目にあって帰りました。それからは悪いおじいさんもよいおじいさんになりました。
話者 佐藤ふみ(川西町) 母
採集 佐藤しげ子
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