19 猿聟入

 むかしよ、猿が人間の嫁欲しいて言うのがいだったもんだど。
 ある年、すごい水不足で、ある家の親父が毎日水引きすんなだげんども、さっぱし水が田さ掛んねなだど。
「困ったもんだなぁ」て思っていたどこさ猿が来て、
「おれが水引いて来て呉っから、おれのいうごと何でも聞っか」て言ったど。その親父は、
「猿が食うものでも欲しがんなだべ」と思って、
「何でも聞っから水引いで呉ろ」て言うたけりゃ、猿はみるみるうちに水集めて田さ引いて呉(け)っちゃど。そしてその田はその年はすごくええぐ出来たんだど。猿は、
「んじゃ、おれの言うごと聞いでけろ、おれさ、お前の娘の一人でええから、嫁さ呉ろ」て言うたど。
 親父はたまげたげんども約束だったし、家さは娘三人も居っからと思って、家さ帰って行ったど。んだげんども、どうしようもなくて何にも食わねで寝っだけりゃ、一番上の娘が、
「とうちゃん、何で御飯食わねなや、どごが悪(わ)れなが」て言うもんで、
「どこも悪ぐなえげんども、おれの言うごと聞いてくれっと食われる」ていうもんで、親父は、
「お前、猿の嫁になって呉(け)んにぇが」ていうったら、娘はごしゃえで、
「なんで人間がさるの嫁になんなねごんだ、食わねでろ」て、ごしゃえで出でったど。まだちっと経(た)って二番目の娘が、
「とうちゃん、何で飯食わねごんだ。どこか悪れなが」て言うもんで、
「こういうわけで食わんにぇなだ」ていうど、娘は、
「ほんとに馬鹿にしてっこど」て、馬鹿にした顔して出でってしまったど。親父は、
「みな娘に、ことわられっぺし、どうしたらええもんだべな」て思っていだけりゃ、一番下の娘が来て、
「なんで飯食わねごんだ」て来たもんで、「こういうわけで…」て話してやったけりゃ、
「ああ、ええごんだ、おれがその嫁になってけっから、とうちゃん、飯食って呉ろ」ていうもんで、親父は安泰して、飯何杯も食ったど。
 ある日、猿はちゃんとカミシモをつけて、その娘のどこさやって来たど。娘もちゃんと花嫁の姿して、いだったけど。猿はその娘んどこ連(つ)っちぇ、山の中さ帰って行ったど。そこの猿の家では、今日はめでたいからって、餅搗きはじまったど。そしたけりゃ、娘は猿に、
「ああ、おら家のとうちゃんも、餅大好きだったげんども、とうとう餅搗かねで来てしまったなぁ」て言うたけぁ、猿は、
「んじゃ、楓の葉っぱさでも包んで持ってってくろ」て言ったど。娘は、
「おら家のとうちゃん、草の匂いすっど食わんにぇなよ」
「んじゃ、藁の苞(つと)こさ入っちぇ持って行げ」て言ったど。娘は、
「おらえのとうちゃん、苞こさ入っちゃ、餅食わんにぇなよ」て言うど、
「んじゃ困ったもんだなぁ、仕方ないがら、臼がらみ持ってって呉(け)っか」
「それだったら、とうちゃんも喜んで食うべ」て言うたど。そして猿は、その臼を背中さ背負って親父のうちさ向って行ったど。行ぐうちに大っきい川があったど。そしたら、娘が、
「ああ、とうちゃん、あの花大好きだったんだ。取ってって呉(け)っちゃら、なんぼ喜ぶんだがなぁ」ていうていると、猿は、
「んじゃ、とって呉っから」て、臼を降ろそうとしたど。そうすっど娘は、
「あっ、とうちゃん、餅、土くさぐなっど食わんにぇなよ」ていうど、猿は、
「んじゃ仕方ねえがら、背負って登っこではぁ」て言うて木さ登ったど。そして「この木が」て言うど、娘は、
「もう少し先の方のあの花」て言って、だんだんと先の方さ猿んどこやって、ちょうど川の一番深いどこの上辺りさ来た時、「そこの花だ!」て言うたもんで、猿はその木をとってやっど思ったけりゃ、川の深いどこさジャボンて入ってしまい、臼背負ったままだったもんで、ズブズブ沈みながら、流っちぇ行って、「助けてけろ」て、猿は叫ぶげんど、娘は、「今のうちだ」と思ってわらわら家さ帰って行ってしまったど。そしてその娘は猿の財産全部もらって、家さ戻ったど。二人の姉たちはそれを見て、「おれが猿の嫁になっとええがった」て、ねたんだったもんだど。
話者 安部芳雄(米沢市木和田)
採集 安部富美子
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