24 食わず女房

 欲のふかい男ぁいで、お飯(まま)食ねぇオカタ欲しいて言い申したど。
「御飯食ねで稼ぐオカタざぁあんめえ」
 て言い申したげんど、御飯の食ねオカタ欲しいどて、心に思っていたんだべな。そしていたらば、思うことかなって、夜遅くええ娘来たどな。そして、
「今夜一晩、泊めておくやい」
 て、そして、
「あまりええから泊れ」
 て、そして言うたど。
「おれぁ、御飯食ねがら、心配しないでおくやい」
 て、こう言うたってよ。御飯食ねオカタったって、こいつ御飯食ねごんだら、オカタにしてもええと思って、その息子ぁ考えっだど。そして次の日になっても自分が一人っこで御飯食って、
「おれぁ行って来っから…」
 て。
「われ、御飯食ねが?」
 て言うたら、「おれ、御飯食ね」て、朝げも食ねど。それから、御飯食ねというオカタ、わればり食って、欲深いもんだから、山稼ぎに行ったところぁ、オカタぁ、昼間になる頃、米持って来て、米といで、そして大きな鍋さ御飯炊いで、ヤキメシ握って、ずうっと並べて、何しっど思っていっど、髪引っこ抜いで、頭の中さそのヤキメシなんぼも突込んだど。ストッと入れ、ストッと入れ、てみな入っでしまって、行ってしまったってよ。そうすっど隣の人ぁ来て、
「何しったんだか、親父もいねえに、火など焚いでいたようだ」
 て思って見たところぁ、ヤキメシ握って、頭さ入れ方しったんだど。
「いやいや、御飯食ねオカタと言ってる、このような者、人でなどあんめえちゃえ、鬼だべちゃ」
 て、その息子に教えだど。
「御飯食ねオカタ欲しいなていだけぁ、御飯食ねじゃあんめえちゃえ、あのようにヤキメシ握って、あの姉さ、髪といで入っだぜさ、鬼だか蛇だか分んねぞ」
 そして言わっで、
「われも隠っで見っだらええんねが、てんつだと思うごんだら…」
 そして言わっで、その人ぁ裏板さ上って行った。弁当持って朝げには出て行ったふりして、隠っで見っだど。そうしたところぁ案の定、米といで御飯炊いで、ヤキメシ握って、また入れ始めたどな。そうすっじど、欲のふかい者だげど、恐っかねもんだから、
「われには、暇くれっから行って呉ろ」
 て言うたど。そしたば、
「おれ行くはええげんどもなぁ、唯も行ってらんねがら、おれに大きい桶一つ呉(く)っでやんねが…」
 て言うたど。
「桶など、ええて、ええて、どれでもええから、どれでも呉れっから。どの桶ええがんべ」
 て、そして、なじょな桶なんだか、人が入るぐらいな桶見ていたところぁ、
「この桶に何も入っていねがんべが…」
 どかて、息子が曲っているうちに、その桶の中さ、ストンと入っでな、こんど鬼になって山さ登って行ったど。
 そして山奥さ行ってしまって、桶、ドサラって「まず一休みだ」なて、その桶おいていたところぁ、その山さコゴミの木ぁ、大きいのあって、コゴミぁいっぱい落っでだもんだから、そのコゴミ食いして、ずうっと桶置いっだの忘(わ)しぇではぁ、行ってしまったどこだど。そうすっじど、ここら辺りでだらば、隠れっどこないかなんだかと思って、そっと桶の中見たところぁ、桶の中さ入っていて、考えっだところぁ、まず入っていればおれも生きらんねがら、と思って、そして横にしてみたれば桶は転んで、われぁ出られるようになったど。それからこんどは出てみたところぁ、そのヨモギと菖蒲いっぱいあって、麓に草場あって、人はいったって見えないようなとこあったってよ。そこさ入って黙ってすぐんでいたば、その鬼はええぐらい来たど。
「さぁ、こんどぁコゴミうんと食ったし、親父食うほかない」
 て、独り言語って、この桶見たところぁ、いない。
「どこさ逃げあがったんだか、いねもんだ。ここでいねくなったんだから、そがえ遠くさ行かねべぁなあ。ここら近所でいねぐなったんだから…」
 て、探(さが)ねたげんども、いねもんだから、菖蒲とヨモギのあっどこさ行ったど。そしたら菖蒲とヨモギというもの、鬼は大嫌いなもんだから、鬼は負けてしまったど。そして鬼ぁ角がなくなったどこだってよ。んで、五月のお節句に鬼来っどわるいから、菖蒲とヨモギ立てるんだど。
(安部はつよ)
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