23 鰹節(かつぷし)売り(牛方と山姥)

 山道来っどき、牛方している人ぁ、鰹節でっちりつけて、山道来来(きき)したど。
 そんどき、鬼ぁ出きて、そして、
「鰹節売り、鰹節売り、鰹節一本呉ねど、呑むぞ」
 て。
「鰹節一本呉ろ」
 て言うげんども、一本呉(く)っじゃらば、鬼だもの、ペロッと食(く)だいと言わっだら商売(あきない)にするもの、これ仕様ないと思って、鰹節売り、知しゃねふりして、来(き)来(き)したど。そうすっど追っかけて来て、
「鰹節呉(く)んねえど飲むぞ」
 て言うもんだから、その鰹節呉(く)っで食せたところぁ、案の定、なんぼいっぱい着けっだもんだかなんだか、食って、こんどは人さ追っかけだってよ。鬼は。それからこんどは逃げた、逃げた。逃げて来て、木の上さあがって黙って知しゃねふりしてはぁ、来て、
「ここらさ隠っだ筈だ、鰹節売りも食ってしまわねうちは…」
 て、うんと探ねだところぁ、お堀ぁあって、そこさ木一本あって、そいつさ上って、鰹節売りぁいたどころが、天井にいた鰹節売り見つけて、そして、
「ここに、きつがった(居あがった!)、ほに、逃がしておかない」
 て言うけぁ、その堀の中さ、影ぷち見つけて入ってしまったどはぁ。そうすっじど、鰹節売りは助かった。鬼は死んでしまったど。
 鰹節売りは牛も鰹節もなくなったから、鰹節売りやめてしまったどこだ。
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