22 猿と蛙

 猿と蛙ぁいて、百姓、餅だから、盗んで二人で食うべと思って、そして猿ぁ臼がらみ盗んで来っから、ほだからここから臼転ばして、臼さ早く届いた者は、いっぱい食うごんだって、山から臼コロコロって、餅入ったまんま、猿ぁ転ばしたど。
 そうすっじど、蛙は後から立って、
「まず、どこまで行ったら餅ぁ食(か)れんだか」
 て、蛙は追いかけて行ったど。そうすっど、猿ぁ賢いもんだから、臼転ばしてはぁ、ちゃんと下さ行って、臼さ届(とず)いたもんだから、その中も見ないで、その臼さ尻かけて、猿ぁ、
「びっき殿、びっき殿、早く来てみろ」
 どかて、
「餅ぁ、ここにいっぱいあっから…」
 どかて、ちゃんと尻掛けて、猿ぁ待っていだって。そうすっど蛙はピコラピコラて、うしろから行ってみたところぁ、木の根っこ株に餅ぁあっちにピタリ、こっちにピタリと引っ掛っていだど。そいつを蛙は、はがして食い、はがして食いしたもんだから、蛙の手は皆くっついだけど。
 そして猿ぁ、あまり蛙来ねもんだから、餅食うべと思って臼見たど。そしたば臼に一つも餅はないのだど。
 それからこんど、わらわらもどって、そして、
「蛙どの、蛙どの、おれ、餅もって行ったげんども、おれぁ臼さ一つも餅は入っていねがったがら…」
 て言うたば、
「おれぁ食う餅はこいつだから、おまえ、臼の餅だけ食(く)えやい」
 て、びっきは言うたって。
「臼には餅ぁ一つもないから、おれにも餅くっじぇ呉(く)ろ」
 て言うたば、蛙は熱いとこの餅、木の根っこからとって、猿の面(つら)さぶっつけたど。ほだから、猿の面、鼻ぱしは赤いんだど。
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