19 三枚のお札

「山さ栗ぁ出きたから、和尚さま、和尚さま、栗拾いにやっておくやい」
 て、その小僧二人で言うたどこだどな。そうすっど、和尚さま、
「あまりええ、行って来い。われだ奥山さ行くどな、鬼ざぁいっから、ほだから気ィつけて鬼に行き会わねときはええげんども、行き会ったときぁ、このお札三枚呉れっから、その悪いこと、恐っかないことあったら、そのお札貼って逃げて来いよ」
 て、その三枚のお札もらって、二人で行ったど。そうして行ったところぁ、栗落っでて、ずうっと奥山さ入って行ったところぁ、ただ小っちゃこい、ボウロク家ぁ一軒あったど。そこまで行ったら、暗くなってはぁ、来らんねぐなったど。そして、
「栗、いっぱい拾ったげんども、これから行かんねがらはぁ、ここさ泊めてもらったら、ええがんべ」
 て思って、そこさ行って覗いて見たど。そしたら婆一人いたけど。
「泊めておくやい」
「あまりええ、泊める、泊める。泊まれ」
 その婆、あまり受けええもんだから、二人はそこさ泊ったそうだ。そして夜、
「大きい小僧ぁ前さ、小(ち)っちゃこい小僧ぁうしろさ寝ろ」
 て、三人で、婆は真中さ寝っだどこだど。そして大きい小僧ばペロリペロリと婆、なめだって…。そしてこんどなめらっで、大きい小僧動いたもんだから、こんど小っちゃな小僧どこさ行って、小っちゃい小僧なめだって。そうすっど、
「恐っかない鬼婆ざぁいるて、和尚さまに聞いたもんだから、これは鬼婆だぞな、ここにいっど食(か)っでしまわれっから…」
 て、大きい小僧は、
「便所さやっておくやい」
 て言うたど。そうすっど、小っちゃい小僧も恐っかないもんだから、
「おれも出っから、おれも一つにやっておくやい」
 て、そう言うたど。そうしたらば、
「じきに来いよ」
 て、婆さまは言うたって。そしてはぁ、二人で便所さ行って、
「鬼婆ざぁ、このごんだから、この時だ」
 て、お札一枚、センチ(便所)さ貼って、そして二人で逃げて行ったんだど。そうすっど、婆、ええぐらい大概、
「小僧、ええがはぁ、まだか、まだ出っか」
 その縄結(ゆ)つけてやったんだど。そして婆、寝てて、その縄引張った。
「はい、まだ出る、まだ出る」
 て、その縄言うもんだど。そうして、何べんも言うもんだから、婆怒って、
「そがな長く出ているざぁない、まだか小僧」
 て、縄、思い切って引張ったど。そうしっど、便所(せんち)ミリミリともっかえって来たど。ずるずるとその縄さ喰っついて来たどな。便所が…。そうすっど、
「この野郎は逃げあがった。おれ食うべと思っていたら、おれに食(か)れっど思って逃げて行った」
 ずうもんで、婆、鬼になって追っかけだど。そうすっじど、
「小僧、どこまで逃げだって、逃がしておかねぞ」
 ていう音聞きつけだど。そうすっじど、
「追っかけらっでがら、仕様ないから、抑えらんねうちに、いま一つお札あっから、大きい火ぁ出ろ、火ぁ出ろ」
 て、そのお札、また貼りつけで逃げだど。どこもかこも、ボンボン・ボンボンて、火になって、そして婆行かんねどこだど。
 そうすっど、どっから出たもんだか、余程(よっほど)、山半分も来てから、まだ追っかけて来たずもな。
「小僧小僧、逃がしておかないぞ、助けでなどおかないぞ、食ってしまうぞ、二人とも逃がしておかないぞ」
 て、怒って音立てたどこ聞きつけだど。そうすっじど、殺されっど困っから、お札一枚しかないから、いま一枚行かんなねからて、お札ぁ、
「水ぁ出ろ、大きい水ぁ出ろ、水ぁ出て来らんねようにしておくやい」
 て、お札さ願って貼りつけて二人で逃げて来たど。そうしっじど、どこ見てもどこ見ても、大きい川なもんだから、飲んでみたげんども飲みたてらんねど。そうしてあっちゃ廻り、こっちゃ廻りしているうちに、里前さ来たもんだから、わらわらと小僧ぁ来たど。そうすっどまずそのお寺さまどこぁ見えだってな。
「あそこさ行けば、和尚さま助けて呉(け)んべから…」
 そして、二人で青くなって来て、
「和尚さま、和尚さま、あの鬼に食(か)れっどこだから助けておくやい。鬼ぁすぐに追いかけて来っから…」
 て、そういうたもんだから、
「鬼ぁいたから気ィ付けろと言うてあっけ、んねが。鬼のいたとこまで行かねごんだ。早く押入れさでも入っていろ」
 そして、二人、押入さ突込んで、和尚さま知(し)しゃんぷりしていたど。そうすっど、婆、どっから来たもんだか、その海、水あっどこ漕いで来て、
「和尚さま、和尚さま、いま小僧二人来ねがったべか。お寺の小僧っこだから、確かにお寺に来たに相違ない。来たべ、和尚さま」
 とかで、その婆、鬼になって来たってよ。そうすっど、
「小僧など来ない、来ない、おらえの家から、小僧など山さ行かねもんだから、来ない」
 て、和尚さま言って、節分の豆出して、カラカラと煎って、
「鬼は外、福は内、鬼は外、福は内」
 て、鬼さぶっつけたど。そうすっど鬼の角ぁ、牙もポロポロと、みなもげて、婆になったど。そうすっじど、
「和尚さま、和尚さま、今まで人とって食ってだげんども、今度は牙もないしすっから、鬼にはなんね」
 て、婆はそっから行ったど。そうすっど、和尚は、
「小僧、小僧、見ろ。鬼にお前だ食れっどこだった。ほだから、鬼のいたどこまで行くなよって、言うたけどら…」
 そのいわれで、「福は内」するんだど。
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 なぜだか、安部家では、ヤツカシラだけさして、豆蒔きはしない。
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