18 糠福と米福

 糠福って、先妻の子どもで、米福ざぁ後妻の子どもだったそうだ。そして糠福は大きいもんだから、何でもかんでもさせらっでいだに、米福は何もしないでいたとき、山さ栗拾いに行きだいと言うたど。
「姉さと二人で、ほんじゃ一緒に行ってこい」
 どて、糠福のハケゴは、ぼっこれハケゴの尻抜けで、米福のハケゴはええハケゴで、
「こいつ一つになったら来いよ」
 て、そして二人出してやったどこだど。ヤキメシあずけて、そのヤキメシ背負って、
「姉さの後ばり、ずうっと歩けよ」
 て、ガガ(母)教えたど。
 そうすっど、姉さの後ばりずうっと行ったもんだから、姉さ、なんぼ拾っても、すっぽ抜けんだから、ぺろっと栗ぁ落ちてくるんだど。米福はずうっと後から歩いて拾って、ハケゴさでっちりになったもんだから、米福は、
「行くぜはぁ、姉さ」
 て。
「お前一つになったど、おれぁなんぼいっぱいになんね」
「いっぱいになったぜはぁ、んだから行くぜはぁ」
 て言うたってよ。そうすっど糠福は、
「ほんじゃ、おれ、いま少し(ちいと)拾って行んから、お前行ってろはぁ、おれぁまず、相当拾わねど行かんねから、おれのざぁ、溜っざぁない」
 て。そして米福ばり帰って来たどこだど。そうすっじど、糠福はずっと行って見たらば、お堀みたいなところ、山にあって、
「お飯(まま)食うかなぁ、ヤキメシ食うかなぁ」
 て、そこさ行ってヤキメシ広げて、まず食うべと思って食ってみたところが、糠ばりいっぱいで、お飯(まま)食(か)んねぐらい糠いっぱいだったど。
「そがなヤキメシ握って呉(く)っじゃもんだ。こだなもの食んねから…」
 て、そこさジャポンと入っで、そして投(ぶ)ってやって、
「んじゃ、どうする。家さ行ってみたて、一つも栗も拾わないで行ったらば、おれなどおんつぁれるべから、ここさ入ってはぁ、死んだ方ええべから、死んでしまった方ええべ」
 て、そしてそこにちんとしていたら、水ぁ波立って、波の向うから出てくるように見えたもんだから、見っだところぁ、大変な大きい波ぁ寄って、そこから大蛇出てきたそうだ。そして、
「大蛇など恐っかなくない。食(か)っだって、どうせ家さ行かんねから、食っじゃて恐っかなくない」
 て。そしてそこに往生申していだど。糠福がよ。そしたらば、先妻の親だったてな、そいつは。
「お前の親だから、そがなハケゴさ栗ぁ溜っざぁないもんだから、そんでこの宝物呉(く)れっから、宝物さえ持って行くじど、何でも出る。どこさ行くにも、うまいもの出ろて言うど、うまいもの出るし、銭ぁ出ろて言うど、銭ぁ出っから、んだからこれ持って行けよ」
 て、宝物もらったな、フクベンだったど。
「われ、腹へったべから、おれぁ、こっから饅頭出ろ」
 て言うたところぁ、いるうちに饅頭出たど。そして饅頭御馳走になってるうちに、またスルスルと大蛇いなぐなったど。そいつ持ってはぁ、
「こいつ持(たが)って行くじど、何でも出る、おれぁ、おんつぁれっことないし、苦にすっこどない」
 て思って、さっさと帰って来たどはぁ、そしたら、
「糠福、糠福、なんだ今頃来て、なんぼ拾って来たごんだ。米福など一つ拾ってさっきだ(先程)来たぜはぁ、今頃まで掛って…」
 て、ガガにおんつぁっだどな。それから、
「んだ、今頃までかかって来たげんどなぁ、おれ、たんと拾わねげんど、筵一枚敷いておくやい、オッカサ」
 て言うたってよ。
「筵敷くなんて、このハケゴ一つだもの、筵一枚あっかさ?」
 て言わっだってな。
「いいから、敷いておくやい」
 そして筵敷いてはぁ、
「栗ぁ、でっちり出ろ、栗ぁでっちり出ろ」
 て言うど、筵さ栗ぁでっちり出たど。そして、
「これっきりしか拾わねがった」
 て言うたて。
「ほう、よく拾ってきたな。そがえに、その底抜けハケゴさ、よく入ったもんだな」
 どかって、そのガガ言うたって。そんでもそがえなこと気にしないで、そして来て、米福と二人いたところぁ、
「常座さ、芝居やったから、みんな芝居見に行かねか」
 て、友達は言うたってよ。そしたば、芝居ていうから、
「おれと米福は先さ行ってからな、われも、んだから仕事終えたら来い、そして米といで、お飯(まま)炊くばりにして、風呂わかして、来っどされるように、そしてみな整えて来ないじど、遅くなんだから…」
 て、衣裳きて、ガガ行ったってな。
 そうすっじど、糠福は一生懸命でしったげんども、銭は不自由しないし、着物不自由しないげんども、しないげれば仕方ないから、しなくてなんねえどこだものな。そしてしったところぁ、
「糠福、芝居やってたから、芝居見にあえべ」
 て、友だちは誘いに来たどな。
「おれ、いっぱい用いいつけらっで、風呂から、米とぎから言いつけらっで、飯(まま)出るばりして来いと言わっだから、お前だ行っておくやい」
「いやいや、んじゃ、助(す)けっから、して行かねじゃ悪いごで」
 て、その友だちは皆来て、助(す)けて、出したってな。そして友だちにお飯食うばりにしてもらったってな。それからこんどは宝物で銭いっぱい出んべし、これ振っど衣裳出っから、
「衣裳出ろ、衣裳出ろ、帯出ろ、ほら下駄出ろ」
 て、みな出して、一装束ぺろり拵(こさ)って、友だちさもぺろっと銭を呉っじゃど。そしてみんな友だちと、ちゃんと桟敷さ行ったど。桟敷さ上っていたれば、下の方に米福とガガと二人で見っだって。うまいものいっぱい持って、お菓子持ったりして行ったもんだから、まず饅頭食って、皮ぶって呉っじゃど。そうすっど米福は、
「いやいや、おっかさ、あそこにいたお嬢さま、おれどこさ饅頭の皮ぶってよこして呉っじゃぜ、腹減ったから、うまかった」
 て言うのよ。
「んじゃ、われどこさ呉っじゃなだから、頂いて御馳走になっこんだ」
 て、ガガと米福二人で食ってはぁ、芝居終えてから帰って来たどはぁ。そして糠福はそいつより先に帰って来たどはぁ。
「おっかさにおんつぁれっど悪いから、おれ、先に帰って行くから、お前だもっと見てこい」
 て、糠福は先さ帰って来て、また髪ほどいて、ボロ衣裳きて、墨などわざとつけていたところぁ、ガガと米福ぁ来たど。そして、
「糠福、糠福」
「お飯出たし、お湯はわいたしすっから、お湯さ入って、お飯上っておくやい」
 そしたらば、お湯さ入ったり、お飯食ったりして、芝居の話もしないで、見て来たから聞きもしねべし、そして寝たところが、次の日、明け明けに、殿さまから糠福もらいに来たとこだものなぁ。そして侍は、
「こっちの家に、糠福という娘いたべから、呉っじぇやって呉ろ」
 て、篭で迎えに来たど。そうすっど、
「糠福であんめえ、米福だべ。糠福であんめえ、米福だべ」
 て、ガガ言うたどこだど。
「いや、米福でない糠福だ」
 て。そして糠福などめんごくないから、仕方ないから、
「あんまりええ」
 て、ガガ言うたど。そしたら、糠福は衣裳でも何でもみな出るもんだから、きれにして、髪結って出たらば、どこかのお姫さまみたいにガガが魂消たところだもなぁ、
「おら家の糠福は化けたどこだ」
 て言うたってよ。そして篭さのって、連(せ)て行ってもらってはぁ、行ってしまったとこさ、米福は、
「おれも行きたい、おっかさ」
 ていうたど。そうしっど、ぐるりにお堀あったもんだから、お堀のぐるりは廻って歩かれるようになっていたから、ドンズルスさのせて、米福をズルリズルリとひいて、面白いかと思って引っぱっていたどな。ガガな。そうしたところが、なんべんも「面白い面白い」ていうもんだから、廻って引っぱっていたの、後の音立てねもんだから、「面白いか、面白いか」て引っぱって音立てねもんだから後振返して見たど、ガガが。
 そうしたところぁ、いつのこま(間)に転んだんだか、お堀さ転んで、米福は死んでしまったど。そうすっどガガ魂消て、そうしてはぁ、
「米福、こげなまず、抜けて引っぱったほでに、お堀さ入って死んでしまったはぁ、こんでは、糠福も呉っでやったし、米福もいないではぁ」
 婆一人になって、一人で暮したどこだ。
 んだから、人の真似もあんまりしねえし、ロクでもないことも語らんねがらな。
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