17 てんつ太郎

 ええ旦那衆などこで、奉公人一人置いだってよ。そして稼ぎ人は、てんつこき(嘘つき)上手で、他人にみな本当のこと語って、てんつだ、てんつだって、あんまりてんつこくもんだから『てんつ太郎』と名付(つ)けらっじぇ、「てんつ太郎、てんつ太郎」て言うがったど。
 そしてあるとき、旦那さま如何にしたったて、事の欠(か)いた(特別な)てんつ語ったど。
「太郎、太郎、おれ頭の毛とアネさま(妻)の頭の毛、撫で剃りてんつこがれっか(語られっか)、頭の毛ないてんつこがれっか」
 て言った。「はい」て聞いっだっけずぁ、
「いや、旦那さまのことだから、どういう風にしたら頭の毛なくなっか」
 どて、いたってよ。そして正月あたり話したてな。
 春になって、春山さ行って、まず仕事していらんねわけだど。どういう風にしたら、頭の毛なくなっかど思ってな、さまざま考えてみて、春になって山さ行って、半分農業して、また秋さなってから、また山さ柴切りにやらっだってよ。山さ行って柴切りしてっけんども、なじょなこと呉(け)っかと思って考えて、半分稼いで半日はぁ、考えてばりいたところぁ、この松の木さ鷹巣喰ってたど。一つ拵えて呉れっかなと思って、糯米一俵ばり盗んで、鷹の糞(ばっこ)拵えしたどこだど。そしてその松の木から落ちたどこなの、下さいっぱい落っで、たれ散らかしたどこ拵ったど。そしてひと秋拵って半日稼いで、半日はそういうことして、毎日弁当持って行っていたど。
 そしてうんと秋になって、遅くなった頃、こんど鳥ぁむよけた(かえった)どこして、
「旦那さま、旦那さま、おれぁ柴切りしてっどこに、鷹ぁ巣喰って、やかましくて仕様ない、行って見やんねが」
 こう言うたてよ。そうすっど、その旦那さま、
「鷹巣喰ったどこなど、見たことないから、行って見っかな」
 こんど何も忘(わ)せではぁ、行ったどこだと。そうしたところぁ、
「まず、おれ登って見っから、ここに旦那さまいておくやい。おれ、先見て来っから…」
「いやいや、この糞(かえし)、大したもんだな、太郎、大変なもんだなぁ」
 て、その旦那はまず下にいたってよ。太郎ぁ木の上さ半分ばかり上がったところぁ、大変な顔して、自分の家の方眺めてっどなぁ、太郎は。
「なんだ太郎、なに見っだごんだ、何かいたか」
 て言うたらば、
「いや、まずまず、家のところの屋敷ぁ、火事ぁ出て、とんなこと、みな家は焼けるようだ」
 て言うたところぁ、その旦那さま、魂消て、腰抜けらかして動かんねぐなったど。そうすっど、
「太郎太郎、歩いで行って見て呉(く)ろ、おれも行って見っから、今頃丸焼けになって、なじょなことになるんだか」
 というたば、
「まず、ここにいておくやい、おれぁ行って見てくっから、走って見てくっから、まずここにいておくやい」
 て、われぁ木の上から降っで、家さわらわら帰って来たど。そしたら家には、何でもないわけだ。
「アネさま、あねさま、旦那さまが鷹の巣喰ったな見たいどて、木の上さ登って木の上から、ひっぽろぎ落っで、まず腰抜けらかして、死ぬか生きっか分んね。菩提のためだからって、髪切ろって言うから、どうか髪切らせて呉ろ」
 て、わらわら切って坊主にして、そして剃刀持って山さわらわら行ったどこだど。そうすっど、
「なじょなもんだっけ、太郎、太郎、なじょなごんだけ、まず。みな家焼けだかはぁ」
 て言うたば、
「いやいや、焼けてやけて、大事なもの出すどて、あねさ、入んな入んなと言うたげんども、大事なもの出しに行って、火傷(やけぱた)して死ぬか生きっか分んねから、ほだから、旦那さま、菩提のためにその頭の毛剃るようにて言ってよこしたから、させておくやい」
 て、その剃刀で頭剃って呉(け)たんだど。そして、
「まず、ほんじゃ、行ってばり見っから、目ふたいで呉ろ。おれぁ背負って行んから、この頭して行かんねから、手拭かぶって、そして目なんかしぐって(つぶって)背負(うば)って歩(あ)ぇべ」
 て、背負って家さ来たってよ。そして目などつぶっていっから、家ぁ焼けたなて分んねでさ、まず家まで来たところが、旦那さまわらわら降ろしてよ、太郎ぁ隠っだどこだど。
「いやいや、てんつこきも上手なもんだ、火事ぁ出て、あねさま死ぬどこだなて、てんつこくもんだ」
 なて、くどきくどき、旦那は怒って、あねさまと二人で茶の間に怒って、
「太郎、来い、まず」
 て言うた。「はい」、太郎出て行ったど。そうしたところぁ、
「あねさまの頭も、あれの頭も、みな剃り落すざぁないんだ」
 どかって、(とか言って)
「いやいや、旦那さま、旦那さま。旦那さまとの約束を一年かかって、やっと今までに毛なくした。こんど毛のないてんつこがねがら、今度は、てんつこきやめだ」
 て言うたど、太郎は。
「いやいや、そうだったか、そんじゃ、てんつこくざぁなんだ、んじゃ、おれぁ謝った。お前にごほうび出すから、てんつこくのやめて呉ろ」
 て、旦那。てんつこきぁ謝って、ごほうびもらったって、そのことだど。
(安部はつよ)
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