13 納     豆

 夏の暑い最中(さなか)、米沢から江戸表へ向けて旅する侍一行がいた。朝早く旅立ちして来たので、腹もすきたしするので、昼食でもしようと茶店に立ち寄った。背負袋から取出したのは、朝では間に合わないため、昨夜のうち作った握り飯、おかずの煮豆を食べようとしたら、暑い最中、暑い背中にむされてきたので、糸が出た。
「ああ、これは何(なっ)としたこと…」
 と叫んだ。中毒しては困ると仲間のすすめるオカズで食事を済したが、只捨てるもいまいましいと、茶店から一つまみの塩をもらって、かきまぜて食べてみた。
「これはいけるぞ」
 と、みんなで食べてしまった。
 帰国後、ああでもない、こうでもないと苦心して作って、「なっとしたこと」から、『納豆』と名付(つ)けた。
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