7 シラクボとメクチャと虱たかり

 むかしあるところに、シラクボ頭と目くちゃと虱たかりの三人の男が居った。三人は大仲よしだったが、シラクボ頭の男は始終頭をガリガリ掻いて、人前もかまわずフケを撒きちらかすし、目くちゃはいつも赤い目をショボショボさせて擦るし、虱タカリはまたウズウズ体と着物をすり合せて、全く人前の悪い様子だった。三人共こんな癖は全く悪い癖だから、治そうと心がけているが、なかなか治らない。
 あるとき、村の旦那に呼ばれて行ってみたら、
「お前たちの悪いくせを今日一日出さなかったら、大好きな酒をいっぱい飲ませよう」
 と言われた。常々悪いくせだから治さなければならないと思いながら、ついつい治されないでいるところ、こう言われたので、しかも大好きな酒を御馳走になる、こんなよいことはない。生つばを呑み込んで大喜びで承知した。冬の日のこととて、仕事はあるじゃないし、囲炉裡にどんどん焚きものをくべて、御茶飲み話をした。
 はじめのうちは、あっちの話、こっちの話と仲々話もはずみ面白かったが、そうそう話の種もない。夕方になる頃は温い囲炉裡火に火照って、ムズムズ、いつもの癖が頸をもたげ出した。虱たかりが言い始めた。
「ほだほだ、こげなことあったど」
 と、大きな熊のシシが奥山に現われて、ノッシノッシと歩いて来たけど…と、肩ひじ張って、全身を揺りゆすり、大熊の歩く真似をした。そして背中の痒みをすっかりとってしまった。
 それを見たシラクボタカリは眼をいからし、
「こげぇな眼をして、頭の毛ぁ、もじゃもじゃしていたっけど」
 と、ガリガリ、白クモを掻いてしまった。
 旦那は好きな話なので、すっかり体をのり出して、
「それから、どうしたんやぁ」
 と聞くと、目くちゃは待ってましたとばかり、
「そいつ見つけた狩人は、弓をこげえに引いて、狙いをつけて、近寄るのを待っていだったど」
 と、目やにをすっかりこすってしまったど。
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