2 早く引き取っておごやえ

 むかし、一人息子を持ったばばぁ、いだっけど。一人息子だからめんごがってめんごがって、それこそ手の上の蓮華のように大事にしていだっだずも。まだ早い、まだ早いといってる内に、息子も一人前の立派な男になったもんだから、世話する人あって、嫁もらったど。
 大へん気立てのええ娘で、「おっかさ、おっかさ」て、なつこいし、また気まめに働くし、それに夫婦仲もええもんだから、何にも言うことぁないから、くどくわけにもいがない。嫁にしてみれば、自分の勤めぶりが未だ足んないくて、おっかさぁ気に合わないなだと思って、ますます身を粉にして働らく。百姓仕事には一生懸命になるし、家の中の仕事は、ヤレソレと稼ぐし、おっかさには、それこそ上げ膳・据え膳、横のものを竪にもさせないぐらいに仕えたど。
 おっかさ、この頃、ブラッと家を出て、何処さか行って来(く)んなだど。先には気にも止めなかったげんども、毎朝、毎朝となると人の目にもつく、隣の人、そぉっと後をつけで行くど、屋敷はずれの神さまに入って行ったど。
「ははぁ、お参りだな、何てお参りしんなだべ」
「悪ぇこんだげんども…」と、元々ゴッツナシな男だ。お宮のうしろさ廻って立ち聞きしったずも。そげなこと知らない婆ぁ、何かくどくどと一心にお参りしったけが、終り頃、大(お)っけえ音で、
「神さま、神さま、世の中ぁつまんなくなったから、早く神さまんどこさ引取っておごやえ」
 て、拝申したど。
「よく判った、そんじゃ直きに引取っからな」
 と、作り声して神さまの音らしぐ大っけえ音立てたど。そしたば、婆ぁ魂消て、
「神さま、神さま、人のてんつ、本気にしゃったなかぁ」
 て、ウォンウォン泣き出したけど。そのあとぁ、嫁ぁ気に合わないとか、神さまさお参り続けたつう話も聞かねから、家の中ぁよく治まったもんであんまいか。
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